こういったハッカソンやアクセラレータープログラムから、実際に政府のサービスとして稼働しているものがある。それがチャットボット「Suve」(エストニア語で“夏”の意味)だ。これはコロナ関連の問い合わせをAIで対応するというものだが、3月14日のハッカソンによって生まれている。
元々エストニアには「Kratt AI」というプロジェクトがあり、複雑化する電子政府の機能の入口をデバイスやアプリに左右されないボットに集約しようとしている。その文脈に沿って、またそのリソースを活用して、コロナを機に民間がその一部を実装するに至ったのだ。
Suveは既に、Government of Estonia、Estonia's Health Board、Ministry of Social Affairs、Work in Estonia、International House of Estonia、Invest in Estonia、TV3のWebページで利用されている。
Kratt AIは最近発表された次世代政府構想の1部であり、重要なパートを占めている。次世代政府構想のホワイトペーパーも、技術的な論点が多いものの、電子政府のあり方について参考になる部分が多いので、また別の機会に紹介したい。
「またログインできない!!」
会社の病欠をオンラインで登録するために、政府のポータルサービス「eesti.ee」にログインしようとする嫁が叫ぶ。電子IDは確かに便利なのだが、あっちのMacで動かないけどこっちだと動く、Webブラウザを変えたら動いた、寝て起きたら動いた、ということが意外とある。なので、「まあいいや後でやろう」となる。
ポルトガルのリスボンから引っ越してきたある男性は「地元で自分のアイデアを披露しても、議論にすらならない。みんな笑うだけでスルーされるんだ。でもエストニアに来たら、みんなとりあえず聞いてくれるし、じゃあ1回デモを作ったら試すよ? と言ってくれる」と来たばかりの印象を振り返る。
これはエストニア人が寛容だったり、お世辞上手だったりするからかというとそうではない。率直さが最も重視され、愛想笑いは不信を誘うだけである。
聞くところによると、今まで政府が行ってきた突飛な行動に、市民が慣れてしまっただけのようだ。IDの電子化に始まり、銀行はもちろん人を訴訟するのだってオンラインでできるよう法整備を行ってきた。あげくの果てに、住んでもいない人を住民と考える(eResidency)と言い始めたのだ。その中で数々の失敗にも巻き込まれてきた。市民はさながら発明家の妻のようなものである。
今回の危機は、発明家とその妻が手を取って乗り切ろう、という構図にも見える。
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