コロナ禍はデジタル終活にどう作用するのか――「第4回 デジタル遺品を考えるシンポジウム」レポートデジタル遺品、もうキてる? まだキていない?(2/2 ページ)

» 2020年12月17日 10時30分 公開
[ITmedia]
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デジタル遺品問題を「今」の問題にするにはどうしたらいい?

 翌週に開催されたDay2は、パネルディスカッションがメインだ。Day1の登壇者に終活支援サービスを提供してきたデジタルキーパーの冨田志信氏も加わり、現在進行形のテーマについて活発な意見が交わされた。

第4回 デジタル遺品を考えるシンポジウム 提示されたディスカッションテーマ

今、誰がデジタル遺品に困っている? 何に困っている人が多い?

 古田氏はまず、「ここ数年で、終活の一環としてデジタル遺品対策に乗り出す人は増えましたが、それでも終活を実践するうちの8分の1程度の人しかいません。まだ物質的な資産やお墓の問題と比べると、後手に回していいと判断される側面も強い」と指摘した。

 実際にサービスを求めるニーズも、本人による事前相談よりも、深刻な事態に陥った遺族からというケースが多いようだ。DDSの上谷氏は「“故人の金融資産を調べるために”というケースはまだ少なくて、自殺を含む労災が絡む事例など、突発的な死因の真相を知るためにロックの解除を求めるという遺族が多い印象です」という。

 一方で、持ち主自身は「自分がどんなデジタル遺品を持っているか、重要なものは何かを認識せずに亡くなるケースも多いのではないか」というMONETの前野氏の意見に、登壇者は皆同意していた。

新型コロナウイルスがデジタル遺品に与えた影響は?

 新型コロナの影響も、デジタル「遺品」にはまだ届いていない様子だ。しかし、withコロナをきっかけにデジタルに対するハードルは劇的に下がったとの声もあった。

 高橋氏は「スマホの普及ペースを超える勢いで、皆がオンラインに飛び込まざるを得ない状況になりました。それによって、デジタル資産は爆発的に増えていると思います。ただし、それがデジタル遺品を考えるきっかけになるかといえば、そこはまだ見えてこないところです」という。サービスへの問い合わせの質や量の大きな変化もまだ見られないそうだ。

デジタル庁やデジタルファースト法でデジタル遺品は変わる?

 同じく、デジタル庁に象徴される政府の動きも近々で作用するという期待は見られなかった。

 伊勢田氏は「デジタル遺品は私法の領域という側面が強いので、デジタル庁がやろうとしているマイナンバーや行政(納税)のところとはちょっとジャンルがずれるかなと思います。もしかしたら、間接的に作用するかもというのはありますが」と距離を置いて見る。

 MONETの前野氏も「路上駐車を減らすための法律ができて、実際に全国で大幅に減るまでに30年近くかかっていますし、いずれにしろ法律の効果が一般に浸透するのは、数十年の時間軸で見るのがいいのかなと思っています」という。

第4回 デジタル遺品を考えるシンポジウム デジタル庁とデジタルファースト法の動き

どうしたら、多くの人にデジタル終活をしてもらえるか?

 つまるところ、デジタル遺品の問題を認識する人が増えてきたのは確実だが、まだ喫緊で取り組むべき課題、あるいは自分ごととして対応すべき問題とは見なしていない人が多いのが現状だと確認できた。しかし、これだけ資産のデジタル化やクラウド化が進んだ今、いずれは向き合わなければならない問題であることは確かだ。

 では、どうしたら多くの人にデジタル終活をしてもらえるか――? ここで頭を悩ましているサービス提供者が多い。

 デジタルキーパーの冨田氏はそういった状況を総合的に判断し、自社サービス「Digital Keeper」を2020年10月に一旦終了している。「みなさんも関心がないわけではなく、セミナーを開くと『必要だ、取り組むべきだ』となります。しかし、会員数は十分に伸びませんでした。いつかやろうと思っている。けれど今ではないというのは確かに感じます」と触れた。

お客さんからの意外だった反応/要望/感想/相談

 そこでヒントになるのは、ユーザーから届いた実際の声だ。

 DDSの上谷氏は、印象に残った事例を挙げる。「亡くなった夫のデータを解析したところ、妻と娘さんが『同じお墓に入りたくない』と感想を漏らしたことがありました。見せたくない、見たくないデータも入っていたんです。実際、解析の結果からそういったデータが出てくることは多いです。死後も隠せるようにするサービスがあれば確実に需要があると思います」と述べた。

 2019年6〜7月にプラネットが実施した終活に関する意識調査でも、「デジタル遺品は中身を見ずに処分してほしい」という回答が過半数に達していた。

第4回 デジタル遺品を考えるシンポジウム 「デジタル遺品は中身を見ずに処分してほしい」の調査結果

 いざというときにデジタル遺品を抹消するというモチーフは、2018年に注目を集めたTVドラマ『dele』でも採用されている。ただし、「死後に遺族の意向を無視して、企業を含む他人がデジタル遺品を抹消するというのは現実的に厳しいでしょう」(伊勢田氏)という問題がある。このあたりは、生前から抹消する仕掛けを作っておくのが現実的かもしれない。

デジタル終活に関して、抜け落ちているニーズはないのか?

 最後に、まだ“拾えていないニーズ”も多いとの指摘を受け、議論が交わされた。

 Digtusの高橋氏は「エンディングノートを書くのもそうですけど、現在は終活しようとしてアクションを止める人が多いと感じます。全部カッチリやろうと見据えると、すごく面倒な作業が目の前に広がる。デジタル終活も同じで、だから、頑張りすぎないで取り組める目安みたいなものあれば、拾えるニーズはかなりあると思います」という。

 DDSの上谷氏は2030年頃を見据え「量子コンピューターが実用化したら、今ある暗号化されたものが全て解けると言われています。そうなると、現在のロック問題は別の局面を迎えるかもしれません。そしてその時代の暗号は何がスタンダードになるのか。そういう視点も重要だと思います」と提言した。

 こういったさまざまな意見を踏まえ、古田氏は「デジタル遺品問題は現状、まだ芽吹くか芽吹かないかという段階にあります。それがいつ大きな社会課題になるかは読めない。今回挙がった新たな議題を含めて、今後も知見を深める場を作っていきたいと思います」と、次回の開催の意思を示し、シンポジウムを閉めた。

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