CES 2021の基調講演で発表されたモバイル向けRyzen 5000だが、Ryzen 4000の発表時と同様にGPU部分については全く触れられなかった。
今回の説明会ではGPUアーキテクチャに関するスライドは用意されていなかったが、APUの構造概略図から、GPUはRyzen 4000と同じく7nmプロセス化されたGCN(Graphics Core Next)アーキテクチャであることが判明した。CU(演算ユニット)は最大8基、GPU用のL2キャッシュは最大1MBを備えることや、ディスプレイ出力回りの仕様もRyzen 4000と同様だ。
ただし、このGPU部分にも改善が施されている。最大稼働クロックは1.75GHzから2.1GHzに引き上げられ、供給を受けられる最大電力量も増加した。電力量の増加は、CPUコアとInfinity Fabric(I/Oダイ)の消費電力を削減した分から賄っているようだ。
結果として、わずかではあるものの、Ryzen 4000からGPUパフォーマンスは向上している。ピーク時のFP32演算性能は1.79TFLOPSから2.15TFLOPS(8CU構成時)と、Ryzen 4000比で最大約1.2倍となっている。
オーディオコーデックやエンベデッドコントローラーのアイドル時における消費電力の削減、電圧レギュレーターの効率改善なども合わせて行うことで、モバイル向けRyzen 5000は、Ryzen 4000を搭載するシステムよりもバッテリー駆動時間が改善するという。
モバイル向けRyzen 5000を搭載するノートPCは、今後150モデル(AMD調べ)登場することが決まっているという。これは、同プロセッサがRyzen 4000とピン互換性を有していることに起因する。Ryzen 4000用のマザーボードの多くを流用できるのだ。
Zen 3アーキテクチャといえば、シングルコア/スレッド性能が改善したことが特徴だ。モバイル向けRyzen 5000でも、Zen 3アーキテクチャを採用したモデルはシングルスレッド性能が大きく向上した。Zen 2アーキテクチャのままのモデルでも、本当に少しではあるがシングルスレッド性能は改善している。
ここで気になるのが、競合のIntel製のモバイルCPUとの性能の差だ。
AMDによると、Ryzen 7 5800U(1.9GHz〜4.4GHz、8コア16スレッド)を搭載するノートPCで総合ベンチマークソフト「PCMark 10」とMicrosoftの「Word」「Excel」「PowerPoint」「Edge」を動かした場合、第11世代Coreプロセッサ(開発コード名:Tiger Lake)の中で上位に当たるCore i7-1165G7(2.8GHz〜4.7GHz、4コア8スレッド)を搭載するPCとほぼ同じか、それを上回る性能を発揮するという。ただし、両プロセッサはコアとスレッドの数に2倍の差があることに留意したい。
同様に、Ryzen 5 5600U(2.3GHz〜4.2GHz、6コア12スレッド)においてフルHD(1920×1080ピクセル)の低画質設定で主要なゲームをプレイすると、第11世代のCore i5-1135G7(2.4GHz〜4.2GHz、4コア8スレッド)とほぼ同等か、より高いパフォーマンスを発揮できたという。ただし、ゲームはCPUとGPUへの最適化がパフォーマンスを大きく左右し、Tiger Lakeはモバイル向けRyzen 5000よりも「新しいGPU」(Iris Xe Graphics)を備えることは考慮に入れたい。
モバイル向けRyzen 5000において、ゲーミングPCやクリエイター向けPCに搭載することを想定した「Hプロセッサ」でも、この傾向は同様だ。ただし、Tiger LakeのHプロセッサ(Core H35)を搭載するノートPCはまだ発売されていないため、比較対象はモバイル向け第10世代(Comet Lake)で最上位に位置するCore i9-10980HK(2.4GHz〜5.3GHz、8コア16スレッド)との比較となっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.