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「Windows 10X」中止が与える影響と「Surface Neo」の今後Windowsフロントライン(2/3 ページ)

» 2021年05月10日 12時00分 公開

市場ニーズとのミスマッチが続く

 “妥協しない”Microsoftは、その後もOSの改良と製品カテゴリーの新規開拓を目指す。残念ながらCourierの開発計画は中断されてしまったが、iPad登場以降の流れで「タッチで操作」が業界の主流になると判断したMicrosoftは、WindowsのUIとUXをよりモダンな形へとブラッシュアップすべく、「Windows 8」のコンセプトを発表した。

 さらに切り札として、より軽量で低消費電力性に優れた「タブレットPC」をリリースすべく、Arm SoC上で動作する軽量版OSの「Windows RT」を開発し、さらに従来の戦略を覆してWindows RTのライセンス先のOEMを限定するなど、非常に“ガチガチ”のコンセプトでハードウェア要件を厳密にした。

 Microsoft自身がファーストパーティーとして同OSを搭載したハードウェア「Surface RT」を自らリリースし、製品の発売日には米ニューヨークのタイムズスクエアを“ジャック”して派手なアピールを世間に行ったほどだ。

Surface RT Windows 8リリース前日にあたる2012年10月26日夜に行われた、米ニューヨークのタイムズスクエアをジャックしてのカウントダウンイベント。今となっては全てが懐かしい
Microsoft Store カウントダウン後にMicrosoft Storeの臨時店舗がオープンし、Surface RTの販売が開始された。筆者はこのデバイスを抱えて1カ月間欧州を周遊してレビューを行っていた

 その結果がどうなったかは詳しく触れないが、少なくとも当時の市場ニーズに合致した製品ではなかったと考えている。Surface RTのコンセプトを継承したラインは後継製品の「Surface 2」でストップし、ここでいったんArm系Windowsは途絶えている。Windows 8のUIやUXそのものに対する不満もあり、Windows 8.1では“アプリ”の動作要件や操作制限が緩和され、Windows 10に至ってはWindows 7時代のデスクトップ中心のUIへと完全に戻されている。

 Windows 8以降に各PCに導入された、タッチスクリーンや基本的な操作機構は現在もなお受け継がれているが、そもそもWindows 10の「タブレットモード」自体が“イケてない”という状況には変わりはなく、今日築かれているデスクトップとタブレットのUIの主従が逆転するには至っていない。

 Santoriniの開発コード名やWindows 10Xについて、長らく先行情報を報じ続けてきたザック・ボーデン氏は「Windows 10Xそのものが消えても、Surface Neoは改良されたWindows 10を搭載して復活してくる」と述べている。

 ただし、現状のWindowsのコンセプトをそのままSurface Neoのようなデバイスに持ち込んだところで、“革新的”な使い勝手をユーザーに提供できるとも思えず、おそらくはOEMやアプリケーション開発者も追随しきれないため、プラットフォームとしての盛り上がりは期待できないとも考える。

 ボーデン氏が「Surface DuoでのAndroid OSの操作性の悪さと、Microsoftのアップデート提供の遅さ」に触れているが、Surface NeoでAndroidを採用するとも思えず、このまま製品自体がフェードアウトすることになると筆者は予想する。

Microsoftは原点に返る

 Windows RTが計画されたのも、当時急速に盛り上がりつつあった「タッチ操作可能な軽量デバイス」「スマートデバイス向けのOS」といったトレンドをキャッチアップするためのものだったと考える。想定ライバルはiPadや「Android(より正確にはAndroid Open Source Project)を搭載したデバイス群」であり、Arm SoC向けを当初からターゲットにしていたことからもうかがえる。

 後に登場した「Windows 10 S」は、OSそのものは基本的にWindows 10そのものだが、機能制限をかけることでセキュリティを向上させつつ、ライセンス価格を引き下げる効果も狙っていた。

 想定ライバルは教育市場を中心に「Chromebook」としていたが、こちらも試みとしては失敗している。理由としては、Windows 10とハードウェア要件が全く変わらないため、価格面での訴求力がほぼなかったこと、そして使い勝手の面ではアプリの導入のためにMicrosoft Storeを経由する必要があるという問題があった。

 Microsoftでは「ファーストラインワーカー向け」を掲げてエンタープライズ向けの需要も想定したが、少なくとも企業のIT担当者への“ウケ”はそれほどでもなかったようだ。後に単体OSは「S mode」という形でWindows 10の動作モードの1つという扱いに格下げされ、今日へと至っている。このWindows 10 Sでの反省を得て、「軽量動作に特化した新しいOS」として開発が進められたのが「Windows Lite」であり、シングルスクリーン版のWindows 10Xという訳だ。

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