過去の連載でも触れたように、このシングルスクリーン版Windows 10Xのターゲットは明確にChromebookに定められている。世界の多くの国で教育市場の過半数がChrome OSに握られつつあり、Microsoftにとって反撃の一手となる可能性があった。だがここでWindows 10Xの開発計画を凍結することは、すなわち「教育分野での新OSでの競合を諦めた」ことに等しい。
従来通りWindows 10を中心とした訴求が続くことになるが、おそらく今の勢いで考えれば、このままChrome OSにシェアをジリジリと削られる展開が続くと思われる。しかし、The Vergeでトム・ウォーレン氏が触れているように、Microsoft自身はこの状況に悲観しておらず、むしろ楽観して受け入れている可能性がある。
2020年のコロナ禍おいて、同社はWindows 10の稼働デバイス数を1年間で10億台から13億台まで急増させており、Windowsのライセンス売上も大幅に伸ばしている。つまり教育市場を仮に落としたとしても、PC市場自体が伸びている現在、躍起になって教育市場を取りにいく必要は必ずしもないのではないかという考えだ。
調査会社のCanalysが2021年5月4日に出したレポートによれば、2021年第1四半期のChromebookの成長率は前年比275ポイントと倍以上の伸びを見せており、例年にない5割以上の成長を見せた他のカテゴリーを大きく引き離している。
注意点として、もともとChromebookの市場自体が非常に小さく、販売台数でいえばそもそも他のカテゴリーに遠く及んでいないという事情を忘れてはいけない。
次に、Chromebook、タブレット、PCの同時期の出荷台数を見てみる。タブレットはChromebookに対して3倍以上、PCに至っては10倍以上の開きがあることが分かる。
つまり、Chromebookは教育市場では圧倒的な強さをもっているものの、市場そのものが決して大きい訳ではない。この点を考慮すれば、MicrosoftはWindowsの派生品を増やして市場を個別に取っていくよりも、あくまで自身が最も力を発揮できる市場に注力して、その地盤を固めるという「原点回帰」の方策を選んだともいえる。
デバイス的な“ワクワク感”を体験できる機会を逸した形ではあるが、Windows 10Xで実現しようとしていた“仕掛け”をMicrosoftがどのように現状のWindows 10にソフトウェア的に実装してくるのかという楽しみはある。
2021年の楽しみの半分は失われてしまったが、Sun Valleyを搭載する「21H2」がどのような形で登場するのか、まずは今年後半の動きを楽しみにウォッチしておこう。
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