新「MacBook Pro」を使って分かった超高性能と緻密なこだわり M1 Pro・Maxでパソコンの作り方まで変えたApple本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/3 ページ)

» 2021年10月29日 17時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 PC業界を長く取材していると、どうしてもマイクロプロセッサの性能や、キーボード、ディスプレイなどのユーザーインタフェース個別の性能、スペックに目が行きがちだ。

 ましてや、Appleが新型の「MacBook Pro」に採用した「M1 Pro・」と「M1 Max」は、パソコン用としては例のない大規模なSoC(System on a Chip)でもある。当然、そのパフォーマンスは高く期待されており、さらにいえば出荷以来、多くのベンチマークテストでもその実力が示されている(テスト結果は記事末)。

MacBook Pro 14 新型の「14インチMacBook Pro」

 しかし、新型MacBook Proを実際に試してみて感じたのは、そうした「パソコンの評価目線や基準」では評価しきれないディテールへのこだわりだった。それは、単純な性能を超え、必要とする人に、必要とされる機能、性能を届けるために半導体レベル、OSレベルから作り込まれた綿密で複雑な商品構築のアプローチだ。

 新型MacBook Proの事例は、長期的にはWindows PCの開発トレンドにも影響を与えるかもしれない。IntelはCoreプロセッサや周辺回路のライセンス計画、ファウンドリサービスの提供計画を発表しており、大手PCベンダーも独自SoCを製品設計に取り入れることが可能になるかもしれない。

用途に特化した製品構築アプローチで半導体、OS、最終製品を構築

 新しいMacBook Proは、水平分業で作られてきたパソコンを垂直統合で構築し直したものだと考えると腑に落ちる。言い換えるならiPhoneと同じ作り方でMacBook Proを開発したのだ。

MacBook Pro 14 手前が新型の14インチMacBook Pro、奥が13インチMacBook Pro。新型MacBook Proは天面と底面がよりフラットなデザインとなったが、見た目は大きく変わらない。しかし、中身とその作り方のアプローチは大きく変わっている

 パソコンは長年、水平分業で作られてきた。その方が大量生産によるメリットを受けやすかったためだ。高性能なCPUをはじめハイスペックなパーツで組み上げたPCがあれば、おおむねなんでもできる時代だったから、というのもあるだろう。

 AppleもMacにおいては、世界中で流通しているPCのアーキテクチャを拝借し、そこに独自のOSを構築。近年はiOSとの親和性を高めてきた。

 しかし、それだけでは不足する部分もあるので、独自のT2チップ(実際にはA10 Fusionのアレンジといわれている)をMacに搭載するこで補い、音質やカメラの画質、あるいはセキュリティを高めていた。

 垂直統合部分と水平分業部分のハイブリッド構造だったのだが、Appleは自社製SoCを採用することで100%垂直統合のMacを作り始め、これまではできなかった自由な製品構築のアプローチを取れるようになった。

 最初の製品では、そこまでの野心はまだ感じられなかった。というも、Apple M1それを搭載したMacは、あくまでも従来のMacを高性能にしただけに過ぎなかったからだ。随所にiPhoneのノウハウは生かされていたが、あくまでも従来のMacの延長線にあるものだった。

 しかしその次にAppleが用意していたのは、製品を構成するあらゆる要素を独自技術で統合したプロフェッショナルクリエイター向けのコンピュータだった。汎用(はんよう)的に使える部品や技術を統合することで得られる製品ではなく、最初にニーズを設定し、そのニーズに合わせて半導体やOSのレベルから開発するというアプローチだ。

 新型MacBook Proにおいては、ディテールへのこだわりと、そのこだわりを実現するための連携が、半導体設計、部品調達、OS、製品設計など幅広く行われている。

 例えば、内蔵するSoCのM1 ProとM1 Maxで初めて採用された処理プロセッサに「メディアエンジン」がある。これまでもiPhone向けに開発されていたHEVCエンコーダは内蔵されていたが、メディアエンジンの回路にはプロ向け映像フォーマットであるProResのエンコード、デコード、HEVCおよびH.264のデコード支援を行う回路などが含まれている。

 言うまでもなく、プロの映像クリエイター向けの回路だが、想定ユーザーの顔をしっかりと見て必要とされるコンポーネントを用意し、半導体レベルから組み込み、OSからアプリケーションまでの動線をしっかりと作り込んでいるのだ。

 しかし、もっと体験の質にかかる部分での作り込みもなかなかまねできない凄さがある。幾つかの例を挙げよう。

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