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» 2021年11月19日 16時30分 公開

iPhoneのTouch IDはなぜ復活しないのか メーカー事情から考える牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

iPhoneの新製品に「Touch IDの復活」を望む声は少なくない。特に昨今のコロナ禍ではそれが顕著だったわけだが、2021年のiPhone 13シリーズに搭載されることはなかった。その理由をメーカー側の視点に加えて、同社が置かれた状況から客観的に考察する。

[牧ノブユキ,ITmedia]

 iPhoneの新製品が発表される度、「Touch IDの復活」を望む声が上がるのが、ここ何年かのお約束となっている。

 2017年発売のiPhone Xに初めて顔認証機能のFace IDが搭載されてから切り替えが進み、それまで主流だった指紋認証機能のTouch IDはiPhone SEなどの一部機種を除き、ほぼ姿を消している。

 しかし、この2年間はコロナ禍により屋外でマスクを外すのが難しかったという差し迫った問題もあり、Touch IDの復活を待望する声はあちこちで聞かれた。

Touch ID iPhone SE(第2世代)のホームボタンに搭載されたTouch ID

 AppleはiPhoneの新製品でTouch IDを復活させない理由について明らかにしていない。そこで今回はTouch IDが復活しない事情を、メーカー側の視点に加えて、現在の同社が置かれた状況から、客観的に考察していこう。

物理的に組み込めるのかという問題

 iPhoneからはほぼ姿を消したTouch IDだが、現行のiPad Air(第4世代)やiPad mini(第6世代)には、電源ボタンとTouch IDを一体化させた「トップボタン」が採用されている。つまり技術的には実装可能なことが証明されているわけで、このことがユーザーの期待をさらに煽る格好になっている。

Touch ID iPad mini(第6世代)は側面のトップボタンにTouch IDを搭載

 とはいえ、これがそのままiPhoneに搭載できるかというと、現実的にはそう簡単ではない。まず一つはモジュールのサイズの問題だ。

 前述のトップボタンは、電源ボタンよりもわずかに大きい程度に抑えられているが、各所で公開されている分解の動画や写真を見る限り、内部のモジュールのサイズはこの比ではなく、おいそれと差し替えられるものではない。iPadより小さなiPhoneのボディーサイズを変えずに収めようとするならば、現在搭載されている何かを省かなくてはならなくなる。

 現行のiPhoneの場合、電源ボタンのすぐ真裏には、カメラモジュールが存在している。現段階ですらボディーの厚みに収まらず、背面に突出しているだけに、ここにさらに指紋認証のモジュールを組み込むことは不可能に近い。あるとすれば、電源ボタンを本体の左側面に移し、その上でカメラのように膨らませて実装するくらいしか考えにくい。

そもそも必要性は認められているのか

 とはいえ、ここまで抜本的な設計変更を行うとなると、必要性はより慎重に吟味されることになる。そもそもこうしたハードウェアの設計は、1年前後の短いスパンではなく、大抵は2〜3年といった長いスパンで行われるのが常だ。実際にAppleは、iPhoneのカメラの設計が3年スパンで行われていることを明かしている。

 そもそも、コロナ禍に突入してからこれまでに行われたiPhone主力機のモデルチェンジはわずか2回しかない。仮にTouch IDの必要性がAppleの社内で認められていても、この短期間でそれらを組み込むのは不可能だろう。

 また昨春の時点では、新型コロナウイルスは一冬越せば終息するはずという楽観的な見方もあった他、さらにそれより前は、感染がアジア地域にとどまり欧米諸国には拡大しないだろうとの見方もあった。その段階での予測をベースに意思決定を行っていれば、ロードマップには何ら影響を与えていない可能性もある。Apple Watchでロック解除できる機能を追加してお茶を濁すのが、とりうる範囲で精いっぱいの対策だった可能性もある。

Touch IDはセキュリティの強度が低い?

 さてもう一つ、AppleがTouch IDの復活に踏み切りづらいであろう大きな理由がある。それは、同じ生体認証であるFace IDに比べると、Touch IDはセキュリティの強度が著しく低く、Touch IDを復活させると、それによってデバイス全体のセキュリティが低下しかねないことだ。

 AppleのサイトでFace IDにまつわる説明を見ると「無作為に選ばれた他人がiPhoneまたはiPad Proを見て、Face IDで本体のロックを解除できてしまう確率は(略)およそ100万分の1」との記述がある。さらにTouch IDについては「別々の指紋が、たとえそのごく一部同士であっても酷似していて、Touch ID に同一指紋として登録されることは(略)わずか5万分の1」とされている。

 現在のFace IDは、鼻を見せればマスク着用時も問題なく認証できるようになっており、そのぶんセキュリティの強度は下がっている可能性があるが、仮に半分に低下していても、Touch IDよりはよほど強固だ。セキュリティがより重要視されつつある風潮の中、安直にTouch IDを復活させてデバイス全体のセキュリティを下げるのが禁じ手なのは、容易に想像できる。

 もし今後、Face IDとTouch IDに両対応した製品をAppleが投入してくるのであれば、一定のセキュリティ強度が担保された全く新しい仕組みであるはずで、なおかつそれは既にロードマップ上に存在しており、出番を待っていると考えるのが自然だろう。

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