これまでの限界を打ち破る! 作り込まれた「Apple Event」で感じた新たな息吹(2/3 ページ)

» 2022年03月10日 12時00分 公開
[林信行ITmedia]

エントリーモデルの「iPhone SE」の性能を底上げ

 今回発表された目玉製品の1つはiPhone SEだろう。2年前に発表された第2世代のiPhone SEに比べ、プロセッサ性能、通信性能、カメラ、そしてバッテリー寿命が劇的に進化している。

 通信機能では、iPhone SEとして初めて5G通信に対応した。プロセッサは、2021年秋に発表されたiPhone 13シリーズと同じA15 Bionicだ。2年前に登場した第2世代iPhone SEより2世代も新しいものになっており、性能も大幅向上している。特に機械学習処理の性能が劇的に向上したので、新製品ではその余力を使ってDeep Fusionやフォトグラフスタイルといった、これまで上位モデルでしか使えなかった撮影機能をSEでも実現している。

 これだけ性能が向上しているにも関わらず、連続使用時間はビデオの再生やストリーミング利用で、前モデルよりも伸びているというから驚きだ。

 なお、製品の形状こそ第2世代のiPhone SEと同じだが、第2世代が、PRODUCT(RED)の赤モデル以外は控えめなブラックとホワイトのカラーバリエーションだったのに対して、第3世代はPRODUCT(RED)以外の2色が、同じ白でも金色を感じさせる光沢が明るく美しいスターライトと、青系のミッドナイトに変わった。Appleはコロナ禍が続く中で、2021年以降の製品でユーザーの気持ちが少しでも明るくなることを狙ってか、積極的に明るい色をカラーバリエーションに採用している。

第3世代iPhone SE 第3世代iPhone SEのカラーは3色用意される

より多くの人にプロ並みの性能を提供する新型iPad Air

明るいカラーバリエーションはiPad Airも同じで、2021年秋に登場した第6世代iPad miniと同じカラーバリエーションに、新たにiPad Airならではのブルーを加えた5色で展開している。

カラフルなカラーバリエーションを用意した新型iPad Air カラフルなカラーバリエーションを用意した新型iPad Air

 製品としての見た目などは、2021年発表の第4世代iPad Airと同じだが、最大の特徴はプロセッサとしてMacやiPad Proと同じM1プロセッサを搭載したこと、セルラーモデルの回線が5G通信に対応したこと、そして前面カメラの性能が向上したことだ。

 特にプロセッサの変更の影響は大きく、前モデルのA14 Bionicに対して60%ほど性能が向上しているという。内部メモリの容量も8GBに倍増しており、これによりアプリなどの動作パフォーマンスが大幅に向上する。写真加工やビデオ編集などの負荷のかかる処理でも、上位のiPad Proシリーズに負けない性能を発揮することになりそうだ。

 インタフェースもThunderbolt 4にこそ対応しないが、USB Type-Cも5Gbpsから10Gbpsにバンド幅が倍増し、外部ディスプレイも従来の4Kから6K出力に対応している。

 このM1プロセッサの搭載により、Appleは再びProモデルとAirモデルとを区別する線を引き直した形だ。

 ほとんどのユーザーは、iPad Airで本格的なクリエイティブワークまで十分こなすことができるだろう。日常的にカメラからiPadに非圧縮の写真や映像を転送して編集する人、それをハイダイナミックレンジの画面で細かなニュアンスまで確認をしたり、ProMotionの滑らかな再生表示で細かく確かめたりしたい人、LiDARなどの最新テクノロジーを必要としている人などはiPad Proが理想だが、そこまでは必要としないほとんどのユーザーはiPad Airで事足りる、というラインだ。

 ちなみに、新iPad Airでは前面カメラが超広角になり、今や多くのApple製品が対応しているセンターフレーム機能(被写体を認識して常にセンタリングする機能)でのビデオチャットにも対応している。

M1プロセッサの内蔵を筆頭に性能が引き上げられた M1プロセッサの内蔵を筆頭に性能が引き上げられた

Mac StudioがデスクトップPCの新しい地平を切り開く

 さて、今回の発表で最大のトピックは、PC用としては最速のプロセッサとなるM1 Ultraと、同プロセッサ搭載モデルも用意したクリエイティブプロフェッショナル用のハイパフォーマンスMacとなる、Mac Studioだろう。

片手で持てる超小型デスクトップPCの「Mac Studio」 片手で持てる超小型デスクトップPCの「Mac Studio」

 既に2021年秋に発表されたMacBook Proが搭載するM1 Maxですら、最先端の映像表現を手掛けるビジュアルスタジオのWOWでも滅多にフルパワーで使い切ることがないことは検証済みだ。

 Macの新モデルとなるMac Studioは、そのM1 Maxを標準で搭載する。SSDのストレージも最大8TBまで利用できるモンスター級のマシンだ。しかし、さらに上の性能を求める人にはプロセッサとしてM1 Ultra搭載モデルも用意されている。

 M1 Maxが登場した時には、「Max(最大)」という名前もあってM1プロセッサの性能は、これで頭打ちだと多くの人が思っていたはずだ。しかし、Appleは実はこのM1 Maxプロセッサに2つのプロセッサを高速接続するすべを用意していた。M1 Ultraは、これを用いて2つのM1 Maxを連結させて1チップ化したSoCで、最大20コアCPU(高性能16コア+高効率4コア)、64コアGPU、32コアNeural EngineをBTOで選ぶことも可能だ。

M1 Ultraのダイサイズは、まさにM1 Maxを2つつなげているのが分かる

 CPUとGPUでメモリを共有する設計もあってか、Intelの最新CPUである第12世代Coreプロセッサと、NVIDIAの最新GPUであるGeForce RTX 3090よりも高いCPU/GPU性能を達成しつつ、消費電力は低いというのがウリだ。

 同じワット数で動作させた際には、第12世代CoreプロセッサのフラッグシップモデルであるCore i9-12900Kよりも、最大90%も高いパフォーマンスを発揮するという。一方で同等レベルのパフォーマンスで動作させた場合には、100Wも消費電力が少ない設計になっている。

 同様にGPUについても、GeForce RTX 3060 Tiと同等の性能を3分の1の消費電力で、GeForce RTX 3090と同等の性能を、200W少ない電力で実現するとうたう。

 現在、PCにとって最も過酷な映像編集作業とも言えるのが、8Kの映像編集だ。世の中にある多くのPCでは、1つの映像を再生するだけでもやっとだ。それを2021年秋に登場したM1 Maxであれば、最大7つの8K ProResビデオストリームを編集できるとして大きな話題になっていたが、M1 Ultraでは同じ8K ProResビデオストリームを18本同時に扱える。

 M1 Max搭載MacBook Proで、ノートPCでありながらもハイパフォーマンスなデスクトップPCを上回る性能を達成したAppleだが、今回、デスクトップモデルであるMac StudioでM1 Ultraモデルを用意したことで、ノートPCの最高峰ともハッキリと大きな差をつけたデスクトップPCだからこそできる、高い性能をしっかり形にしてみせた。

 これだけのパフォーマンスをフルに使い切れる人は、まだほんの一握りだろう。しかし、こうした製品が出てきたことで、初めてさらに高度な表現を形にするソフトウェアが登場するというのがコンピューター業界の常だった。

 最近、プロセッサの性能が向上しても、このような進化がしばらく止まったかのように見えていたが、AppleがApple Siliconで、PCの性能の天井を新たなアプローチで進化させたおかげで、2022年以降はソフトウェアの世界にも大きな飛躍が期待できそうで楽しみだ。

これまでのハイエンドモデル「Mac Pro」(右)をしのぐモデルが今後登場する予定だ

 なお、Apple Eventで聞き逃してはいけないのが、このMac Studioの発表の最後で、Appleがこれとは別にさらに上の性能を発揮する製品、Mac Proも別途開発していることを公言していることだろう。

 新Macが搭載するのがどんなCPUなのか現状では想像もできないが、期待が膨らむばかりだ。

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