iPhoneの強みを反映した「Apple M2」登場 Appleの「黄金パターン」に弱点はあるのか?本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)

» 2022年06月12日 10時00分 公開
[本田雅一ITmedia]
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より良い形でiPhoneの開発成果を発揮する「Apple Mチップ」

 Appleの半導体戦略は、iPhone用の「Apple Aチップ」を軸として展開されている。スマートフォンに使われるSoCが軸ということは、そもそもの電力効率を高めることが重視されていることは言うまでもない。CPUコアを始めとする各機能ブロックにおける電力制御もきめ細かく行われている。

 Apple M1チップが登場した時、筆者はPCというジャンルに収まらない高い電力効率に驚かされた。もしかすると、スマートフォン向けの技術を応用することで熱を抑えながらここまでパフォーマンスを高められるという“ショーケース”になっているのではなかとも思った。

 あまりにも衝撃的だったこともあり、「Apple Mチップ」の次世代モデル、つまり今回登場したApple M2チップは、ある意味で“ラディカル”な進化を遂げると思っていた。しかし実際に登場したM2チップは、想像したよりも保守的な進歩にとどまっていた。

 もちろん、ベンチマークテストを実行すればM1チップよりも高いパフォーマンスを確認できるだろうが、恐らく大きな驚きは伴わないだろう。CPUコアのアーキテクチャはA15 Bionicにも搭載されている「高性能コア(Pコア)」と「高効率コア(Eコア)」の組み合わせで、ISP(イメージシグナルプロセッサ)やNeural Engine、GPUなどの基本仕様は大きく変わっていない。パフォーマンスの向上は、ユニファイドメモリのインタフェースがより広帯域な「LPDDR5」規格に切り替わったことによる恩恵が大きくなると思われる。

 M1チップのコンセプトをそのままに、Appleが手にする最新の持ち駒(機能ブロックやそれに伴う信号処理技術、ライブラリセットなど)を用いつつ、チップの製造を担当するTSMCの技術や生産の歩留まり改善に合わせて再構成したものがApple M2チップといえば良いだろう。

M2の概要 改めてApple M2チップの概要を見てみると、Apple M1チップからの“劇的な”変更点それほどない

 他のCPU/SoCベンダーが新しいアーキテクチャを発表しても、実際に生産/出荷にこぎ着けるまでに時間を要している所からも分かる通り、半導体の設計から製造に至るまでには数年かかる。新しい「MacBook Air」と「13インチMacBook Pro」は、M2チップに“合わせて”用意した新モデルというよりも、ポートフォリオを並べた際に、M2チップをリリースするタイミングで用意できるベストな新モデルと見た方がより正確だろう。

 Appleが他社に対して優位なのは、SoCの機能や性能、消費電力などの目標値が十分に定まった段階で、それを生かすことを前提に最終製品の機能を絞り込んで磨けるという点にある。SoCの基本設計に製品開発のノウハウや要求が盛り込まれ、その結果を反映したSoCが登場し、今まで培ってきた技術と組み合わせて製品開発を行う――このプロセスが同一企業内で完結しているため、開発プロセスがオーバーラップし、より早く最新技術をエンドユーザーに届けられることになる。

 単体のSoCとして見た場合、M2チップは確かに「Tock」に相当するSoCかもしれないが、それを採用する最終製品としては応用が進んだものになっているといえる。

MacBook Pro 先に紹介したMacBook Airと新しい13インチMacBook Proは、M2チップのローンチタイミングでその特性を生かせるベストな選択肢として用意されたものと思われる

Appleの「黄金パターン」は今後も続くだろうが……

 単体のSoCとして見ると、M2チップのトランジスタ総数はM1チップの35%増しとなっている。新世代のNeural Engineの演算パフォーマンスは最大で40%向上した上、M1チップではM1 Proチップ以上に搭載されている「Media Engine」が標準搭載されていることもアドバンテージといえる。ユニファイドメモリの帯域幅と最大容量の増強も、処理パフォーマンスの改善に合わせた改善だと考えれば妥当な範囲だろう。

 今後、M1チップと同じようにバリエーション展開するならば、目的に合わせてCPUコアとGPUコアを増強した「M2 Proチップ」「M2 Maxチップ」、果てはM2 Maxチップをファブリック技術で直結した「M2 Ultraチップ」が出てくるであろうことは想像に難くない。ただし、バリエーションの登場タイミングはTSMCの改良型5nmプロセス「N4Pプロセス」の成熟度合いに左右されそうだ。

 端的にいうと、歩留まりが改善し、より大きな面積のダイを用いたチップを経済的に作れるようになればM2チップファミリーはどんどん展開されることになるだろう。

 一方、TSMCでは現在、3nmプロセス「N3プロセス」の立ちあげに向けた準備が大詰めを迎えているといわれる。恐らく、Appleの新しいAチップはいち早くこのプロセスを採用することになるだろう。新しいAチップファミリーの開発成果は、間違いなく次のMチップファミリーに反映され、新しいMacをより進んだ存在に進化させるだろう。

 ただし、この“黄金パターン”は、より大容量の処理が求められたり、内蔵GPUだけでは力不足だったりする用途で使われる「Mac Pro」にとっても最適解かと言われると疑問である。Appleは2022年内にもAppleシリコンを使ったMac Proをリリースし、Appleシリコンへの1本化を宣言することになると思われる。その時にどんな“手駒”を使うのかは、現時点では謎に満ちた状態となっている。

Mac Pro Macの現行ラインアップにおいて唯一Intelチップのままとなっている「Mac Pro」。これにAppleシリコンをどう適用するのか、そのヒントになりそうな兆候や動きは現時点では見受けられない
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