「未来を創る学び」の共同研究のテーマには「未知のものへのわくわく感のある授業について」というものもある。今回の講演では、このテーマに携わったメンバーとして加納高校の福野衣里子教諭と、岐阜県立大垣北高等学校の落合一大教諭が成果の発表を行った。
そもそも「学ぶ」とは何なのか。2人は「未知のものについて知り、考え、知識・経験として獲得する楽しさを伴うもの」が学びであると語る。しかし、現状を見てみると「分からないこと」について考えることを放棄する生徒や、自分の考えをアウトプットすることを避ける生徒、そして「知らない」ことを恥ずかしがる生徒が少なくないという。
その背景には、本人の自信のなさ、「分からないことは恥ずかしいことだ」と考えてしまうような環境、そしてそもそも論としてのアウトプットの経験不足が挙げられる。しかし、冒頭に触れた岐阜県教育振興基本計画でも指摘されている通り、これからは「不確実性が高まる時代」を迎える。そんな世の中で生きていくには、好奇心を持ち、自ら学び続ける姿勢が重要になる。
「未知のものへのわくわく感のある授業について」という研究テーマは、まさしく「自ら学び続ける」生徒を育てる文脈から設定されたようだ。知識をインプットを、それをもとにアウトプットをするという経験を積み重ねることで、知識と知識をつなぎ合わせることができるようになる。知識のつながりがさまざまなことを楽しめるきっかけとなり、さらに新しい“何か”を生み出すことにつながる、という発想だ。
学校における授業は、「考えること」の材料を集めて、土台を作る場所となる。そこには「未知のものへのわくわく感」が欠かせない。「やりたいことだけを好きにやる」のではなく、「どうせやるなら楽しんでやる」という心持ちが重要であり、生徒自身が「やらなければならないことをやりたい」と思うところまで成長を促し、自らアウトプットしたいと思えるところまで持っていけると理想的である。
この研究は「生徒のために教職員はどんな工夫ができるのか?」「わくわくをどのように感じさせるのか?」ということに重きを置いて、授業を通して検証してきたという。
研究を通して意識したことの1つが生徒のアウトプットのハードルを下げることだという。「知らなかったことを知る楽しさ」や「何かについて考え、何らかの結論が出た楽しさ」を体感するには、生徒が意見を出しやすい環境作りを行い、意見を出すという経験を蓄積させることが欠かせないということである。
そこで重要になってくるのが、授業の「自由度」「難易度」「協働性」と2人は語る。今回の研究では、この3点に焦点を絞って授業を組み立て、検証してきたという。
自由度は、作業や議論のやり方や結論など、プロセスのどこかに生徒の選択の余地を持たせるということだ。ただ、研究を通して自由度は高すぎると手を付けられなくなってかえって良くないということが分かった。ある程度の制約や条件を課した方が、生徒はワクワク感を得やすいようだ。
協働性は、他の生徒と一緒に学習に取り組むことである。アンケートからも「協働することで考えが深まった」と答える生徒が多いことからも、協働性は学習に欠かせない要素である。
ただ、どのような「協働」が良いのか、ということには議論の余地がある。生徒に「どんな人と一緒に取り組みたいか」尋ねた所、多治見工業高校と岐阜県立大垣北高等学校では「単独でやりたい」と答える割合が低かった。一方で、岐阜県立加茂高等学校の定時製課程では2割近くの生徒が「単独でやりたい」と答えた。これは、加茂高校の定時制は生徒の年齢に幅があり、日本語を母語としない生徒が少なからず在籍していることが影響しているものと思われる。
一緒に学びたいと考える生徒がいる一方で、さまざまな理由から1人で学びたいと考える生徒もいる――バランスよく協働させることで、より多くの生徒授業を楽しめるのではないかと考えているという。
なお、このアンケートは岐阜県立郡上高等学校でも行っている。「どんな人と一緒に課題に取り組みたいか?」と聞いてみると、どの高校でも「仲のいい人や気心の知れた仲間と一緒にやりたい」と答える生徒が一番多かった。しかし、他の項目については学校によって割合にばらつきが見られた。学習内容や学校の特性によって、生徒が協働に求めるものが異なることが伺える。
難易度は、そのまま取り組む課題の難易度を表す。多治見工業高校において「またやりたいか」という質問とクロス集計を取った所、「またやってみたい」と答えた生徒の75.5%は「難易度はちょうどよかった」と答えていた。当たり前かもしれないが、課題の難易度を適切に設定することは前向きな気持ちを喚起するということである。
一方で、地域のトップ進学校でもある大垣北高校で同じようにアンケート結果のクロス集計を取ってみた所、「またやってみたい」「やってもいい」「やりたくない」と答えた生徒のいずれも「難易度はちょうどよかった」と答える割合が最多となった。「難しくてなかなか手が出なかった」のに「やりたくない」と答える生徒が少なかったのは学校の“カラー”も出ているようにも思える。
難易度が適切であるに越したことはないが、習熟度によって難しいものに挑戦する気持ちの生まれやすさに差があるという示唆も含んでいる。
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