自由競争をうたって無法地帯を広げるIT企業に、政府はどのような後方支援をすべきか(2/5 ページ)

» 2022年08月23日 12時30分 公開
[林信行ITmedia]

Appleが一元管理するApp Storeを立ち上げ

 一方で、Appleの社内ではiPhoneのアプリ市場を開放すべきという議論が行われており、最終的には重役の2人が全責任を取ると言ってスティーブ・ジョブズCEOを説得。App Storeの企画と開発が始まっていた。無料のアプリは開発者にも課金せずに提供する。有料のアプリは売上の30%をAppleが徴収する。バンドと呼ばれる定められた価格帯でアプリを販売することで、複数の国でのアプリ販売を管理しやすくするといった基本は全てこの時にできあがった。

 安全な正規のアプリ市場を提供することには、iPhoneの動作を不安定にする恐れがあるJailbreakをやめさせようという狙いも多少はあったはずだ。

 こうして2008年7月11日、日本を含む世界22カ国で同時発売となったiPhone 3Gの提供と共にApp Storeがオープンすると、世界中の開発者がこれを歓迎した。

 なんで歓迎したのか。まず1つに、既にその時点でiPhoneユーザーが600万人を突破しており市場として大きいことがある。

 さらにiPhoneが世界22カ国で発売されており、1度の登録操作で世界22カ国でアプリを同時配信できることも大きな魅力だった。それまでもパソコン用ソフトであればホームページからダウンロードできるようにするなどして世界中に提供することはできたが、ソフトを発見してもらうのが大変な上に、ソフトにお金を払ってくれるユーザーは少なかった。

 当時、多くの開発者がiPhoneのApp Storeをゲーム専用機でのゲーム流通と比較していた。ゲームソフトでは国ごとに異なるパッケージを用意したり、サポート体制を整備したりと負担が大きかった。これに対してApp Storeは説明文を販売先の国の言語に翻訳して登録すれば、ほぼそれだけで他の国でもアプリの販売ができる。しかも、Appleが徴収するという30%というマージンも、それまでのゲーム機メーカーが徴収する額に比べれば安いとのことだった。

 アプリの入手先がApp Store1箇所しかないということはアプリの発見性を高める、という点で有利に働いた。こうしてApp Storeの開店と同時に大きな売り上げを上げる開発者が続出した。しかも、開発にかかる手間以外は、ほとんどコスト負担なく世界中でアプリを展開できる。

 その後、このアプリ人気も手伝って、iPhone人気がさらに高まり2008年頃には、ただオナラの音が鳴るだけのアプリでも、話題になれば毎日100万円以上を売り上げる状態になり世界中に多くのアプリ長者が誕生した。そして、この大きなビジネスチャンスによって、さらに多くのアプリ開発者がiPhone用アプリの開発に進出した。

App Storeのジャンル別人気アプリ。App Storeでは、決してApple純正アプリが有利になることはなく、全てのアプリが平等に提供されている。事実、これら4つのカテゴリーでは他社アプリの方が圧倒的な人気を誇っている

 一方で、App Storeは開発者以外に対しても1つ画期的なことを行った。なんと、開発者のアプリをApp Storeで提供する前に1つ1つ人間が手作業で審査をするというのだ。最初はたった500本でスタートしたApp Storeの登録アプリは、現在では180万本にまで増えているが、500人以上のスタッフが81の言語で提供されるアプリを(アップデートなども含め)毎週10万本審査しているという。

 審査ではウイルスなどのマルウェアが混入していないかや、詐欺、勧誘、公序良俗に反するコンテンツの提供など違反行為をしていないか、ちゃんと説明文でうたった通りの機能を提供しているか、さらには動作が安定しているかなどがチェックされる。

 この審査に時間がかかったり、Appleが考える違反行為の基準が厳しくて審査に落ちたりしたことを恨みAppleに不平を言う開発者も少なくなかった。そのため、App Store以外でもアプリの提供を可能にするサイドローディング(当時はそうは呼ばれていなかった)を要求する声は、かなり早い段階からあった。

 そしてライバルプラットフォームのAndroidは、最初からこのサイドローディングを認めていた。しかし、Androidは同じアプリを販売しても台数の割にアプリが売れにくいため、そうした開発者はiOSでのサイドローディングを求め続けた。しかし、Appleはこれを頑なに拒否し続けた。

 iPhoneを出した直後、スティーブ・ジョブズCEOはこう述べていた。

 「私たちは2つの正反対のことを、同時にしようとしています。 先進的でオープンなプラットフォームをデベロッパーに提供しながら、iPhoneユーザーをウイルスやマルウェア、プライバシー攻撃などから守ろうとしているのです。これは簡単なことではありません」

Appleが公開したホワイトペーパー「Building a Trusted Ecosystem for Millions of Apps」(PDF)内にあるスティーブ・ジョブズ氏の発言

 Appleは、iOSの安心安全を守るためには、アプリの提供をApp Storeで一元管理することが大事だと最初から考えていたのだろう。

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