ハードウェアがOKなら、ソフトウェアやファームウェアを更新するとすぐにWi-Fi 6Eを使える――そう思われがちだが、総務省(総合通信基盤局 電波環境課 認証推進室)に話を聞いてみると、現状の法令ではそう簡単に行かない可能性が高いことが分かった。どういうことなのか、順に解説していこう。
無線機は、何らかの理由で仕様変更(対応周波数帯の変更、変調方式の追加、部品の変更など)を行うことがある。電波法の規定では、無線機の仕様を変更する場合にその変更について認証を取得しなくてはならない。
認証の追加取得は、原則として元の認証を取得した者(無線機のメーカー/販売者/輸入者:以下まとめて「メーカー」)が行うことになっており、以下の手順で手続きを進める。
(※3)無線機器が電波法に基づく要件を満たすかどうかを審査する企業や団体(参考リンク)
既存仕様を温存しつつ新仕様を追加する場合は、基本的に既存番号と新番号を併記することになる(新番号の追記を行う)。一方で、既存仕様を削除して新機能を追加する場合は、原則として既存番号を新番号に書き換える必要がある。
モバイル通信(LTE)での話になるが、ある端末でロット変更と同時に無線の仕様を変更した際に、仕様変更前の端末に“誤って”仕様変更後の認証番号を表示してしまうトラブルが発生した事例も存在する。
ハードウェア的に6GHz帯に対応している無線LAN機器の場合、6GHz帯での通信機能を追加するためにソフトウェア/ファームウェアを開発した上で(これが「仕様変更」に相当する)、当該の新ソフトウェア/ファームウェアを適用した状態で上記1〜3の手順を踏む……のだが、現状では2番と3番の手順において大きな課題を抱えている。
現在の法令では、無線機の仕様変更をする際に既存(取得済み)の認証番号を維持できる「同一番号認証制度」が用意されている。
通常、無線機の仕様変更時にメーカーは認証番号の追記/更新をしなければならないのだが、この制度を適用できる場合は番号の追記/更新が不要となる。無線機のユーザーも、番号書き換えに伴う対応をしなくて済む。
まさにメーカーとユーザーの双方に“Win-Win”な制度……なのだが、この制度を利用するには「同一認証番号とする場合のガイドライン」(PDF形式)に定める要件を満たす必要がある。総務省によると、ハードウェアとしては対応済みの6GHz帯の“解禁”は、この要件を満たさないという。
簡単にいうと、Wi-Fi 6Eを利用可能とするには、現時点では6GHz帯の通信に関する認証を“別番号で”取得する必要があるのだ。
現在の法令では、技適などの認証番号は以下のいずれかの方法で表示できる。
(※4)本来はディスプレイを内蔵する無線機(スマホやタブレットなど)を想定しているが、ディスプレイを内蔵しない無線機でも電波を発する前に有線で外部映像出力できることを条件に電磁的表示を許容している(いずれの場合も取扱説明書などで確認方法を解説する必要あり)
(※5)無線機に直接印字または貼り付けできない場合を想定している
先の文章で察した人もいると思うが、認証番号の修正/追記/更新はメーカー自らが行う必要がある。
技適などの電磁的表示ができる無線機であれば、ソフトウェア更新の際に「認証情報(画面表示)」の修正/追記/更新を行える。これなら手間は最小限で済む。
一方で、無線機本体やパッケージ類に認証番号を印字/貼り付けている場合は、原則として当該の本体やパッケージ類をメーカーに“送り返して”修正/追記/更新をしてもらう必要がある。送り返すという対応を伴うため、一定の手間がかかってしまう。
PCの場合、無線LANモジュールの認証番号を“どのように”表示するかは機種による。スマホやタブレットのように電磁的表示で対応しているモデルなら、追記や更新も容易だ。しかし、モジュール(あるいは裏ぶたなど)に印字/貼り付けをしている場合は、その貼り替え(修正)作業を行わなければならない。
現行の制度では、モジュールの表示を電磁的に“転記”することも認められている。裏ぶたを開けずとも認証番号を確認できて便利……なのだが、この場合も、モジュールの表記を修正/追記/更新する手間から逃れることはできない(転記分の更新も避けられない)。
ハードウェア的にはWi-Fi 6Eに対応しているPCにおいて、実際にWi-Fi 6Eに対応するかどうかは“メーカーの考え方次第”ということになりそうである。
筆者が所有するレノボ・ジャパン製ノートPC「ThinkPad X13 Gen 3(Intelモデル)」は、メーカー直販のカスタマイズ(CTO)モデルで、同じ型番でも1台1台の構成が異なる。筆者の選んだ構成では、Intel製のWi-Fi 6E対応無線LANアダプター「Intel Wi-Fi 6E AX211D2W」(AX211のM.2 1216モジュール版)を内蔵している……のだが、現状では日本国内では6GHz帯の通信を行えないようになっている。
AX211D2Wは極小であるため、モジュール自身に技適などの認証番号を印字したり貼り付けたりするスペースはない。そのため、このモデルではUEFI(ファームウェア)とディスプレイを使った電磁的表示で対応している。技適などの申請者は「Intel Corporation S.A.(Intelのベルギー法人)」だ。
これらのことを踏まえると、このThinkPad X13 Gen 3が国内におけるWi-Fi 6Eに対応するためには(理論的には)以下の手順で手続きを進める必要がある。
(※6)総務省への届出によると、AX211D2Wのテストは全てディーエスピーリサーチで実施している
電磁的表示で対応できる場合でも、対応するまでにそれなりの時間を要しそうである。
このように「Wi-Fi 6Eレディ」のデバイス(特にPC)は、後からWi-Fi 6Eに対応する上で小さくないハードルが存在する。ガイドラインを改訂し、6GHz帯の追加対応に同一番号認証制度を適用できるようにできれば、そのハードルは一気に下がるはずだ。
しかし、総務省によると直近でガイドラインの改定は予定していないという。同じモデルなのに、販売時期によってWi-Fi 6Eに対応していたりしていないということを避けるためにも、早期のガイドライン改定が待たれる所である(総務省令の改正も必要かもしれないが)。
ともあれ、6GHz帯での通信を目当てにWi-Fi 6Eデバイスを購入する場合、当面の間は日本国内で対応済みであることを“明記”したものを購入することをお勧めする。
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