―― Adobe Document Cloudでは、どんな進展がありますか?
神谷氏 当社が貢献できる分野として、ペーパーレス化があります。紙のデジタル化は、多くの企業が頭を抱えている課題です。倉庫には、大量の紙が保存されていて、それが適切に管理されていないため、どこに何があるのか分からなかったり、もはや、その書類が必要なのか、必要でないのかも不明なまま保存していたりするという例も少なくありません。当社も2022年にオフィスをリニューアルしたのですが、いらない紙がたくさん出てきましたよ(笑)。
市場調査をしてみると、リモートワークが進展する中で、どうしても出社しなければならない理由として約7割を占めたのが書類処理のためでした。紙がなくなれば、より多くの人がリモートワークを行えるようになります。Adobe Document Cloudは、こうした課題の解決に貢献できると思っています。
日本では、PDFファイルを扱う際に約9割のPCでAcrobat Readerが使われており、これは世界一の実績となっています。ただ、実際にはパスワードをかけず、制御をしないままPDFファイルを添付して送信することが多く、セキュリティの面では不安があります。自宅に資料を持ち帰って仕事をする場合に、不用意にプリントアウトを行い、仕事が終わったらシュレッダーをかけずにゴミに出してしまい、そこから重要な情報が漏えいすることもあります。
そこでAdobe Acrobat ProやAdobe Acrobat Standardを利用してもらい、プリントアウトができないように制御をかけるなど、セキュアな環境でPDFをやりとりしてもらいたいと考えています。リモートワークが広がり、デジタル化が推進される中で、情報をセキュアに運用することの大切さを改めて考える必要があると思います。
一方で2022年8月には、Adobe SignをAdobe Acrobat Signにリブランディングしました。Adobe Acrobat Proのユーザーであれば、電子サインが無制限で利用できるようになり、特に中小企業では電子サインが広く利用できる環境が整ったともいえます。市場調査をしたところ、Acrobatの市場認知度が高く、その中で電子サイン事業を展開した方が、多くのユーザーに理解してもらいやすいと判断しました。先に触れたように、日本では、Acrobat Readerの認知度が高いという背景も、今回のリブランディングに影響しています。
Adobe Acrobat Signは、国内大企業分野ではNo.1のシェアを持っています。また、LGWAN(総合行政ネットワーク)にも対応しており、公共分野での採用が進んでいます。さらに、教育機関における導入が増えてきました。2022年9月には、早稲田大学が、Adobe Acrobat Signを導入し、学内手続きの押印廃止と学内外における承認プロセスの見直し、それに伴うデジタル化の促進を発表しました。教育現場では、依然として紙が多いことを感じています。当社は教育機関のデジタル化、ペーパーレス化にも貢献できます。
―― 3つ目のAdobe Experience Cloudでは、どんな取り組みがありますか。
神谷氏 コロナ禍をきっかけに、より加速したのが、自分が見たいパーソナライズされたデジタルコンテンツを求める動きです。そういったニーズに対して、最適なコンテンツを迅速に提供できるかどうかが企業の収益に直結しています。
デジタルが当たり前に使われることになると、企業と消費者の距離が縮まります。一人一人に最適な経験を届けることが、より重要になります。カシオ計算機では、Adobe Experience Cloudを導入することで、データを活用して適切なお客さまに、適切なコンテンツを、適切なタイミングで届ける「One to One マーケティング」を実現した他、パーツを組み合わせることで約190万通りの中から、G-SHOCKをカスタマイズできる「MY G-SHOCK」の提供を開始しています。
Adobe Experience Manager Assetsの独自機能であるダイナミックメディアや、3DビジュアライゼーションツールのAdobe Substance 3Dなどを活用して、3D環境でパーツの質感を再現しています。お客さまに最適なコンテンツを、迅速に高い品質で届けることが、これからはますます重要になるでしょう。
―― アドビのデジタルメディアに関する年次イベント「Adobe MAX 2022」が、米ロサンゼルスで3年ぶりにリアル開催されました。今回のAdobe MAX 2022のポイントを教えてください。
神谷氏 2022年10月18日から開催したAdobe MAX 2022では、Adobe Expressの最新バージョンの発表をはじめ、数多くの製品や技術が発表されました。全体を通じてみると、コラボレーションが重要な要素になっていたといえます。また、Web版の強化や、メタバースを始めとした3Dへの対応の強化も大きなトピックスだったといえます。
Adobe MAX 2022での発表は、クリエイターのコラボレーション環境を進化させ、仮想空間でも創作活動を行ったり、コラボレーションしたりといったことをできるようにしました。当社の製品を、多くの人が同時に、コラボレーションしながら、さらに誰でもが利用できる環境の実現に、大きく近づくことができる内容を示したものだったといえます。
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