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「DXには決断力が必要であることを伝えたい」とアドビ社長がこだわるワケ IT産業のトレンドリーダーに聞く!(アドビ後編)(3/3 ページ)

» 2022年11月15日 11時30分 公開
[大河原克行ITmedia]
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アドビ変革のストーリーを他社と共有したい

―― 2022年9月には、新たにCDO(Chief Digital Officer)のポジションを設置しました。この狙いを教えてください。

神谷氏 当社は2012年にAdobe Creative Cloudの提供を開始し、それまでの永続版ライセンスモデルから、サブスクリプション型およびクラウド型へとビジネスモデルを転換しました。現在、売上げの多くはアドビのeコマースサイトによる直接販売が占めています。eコマース事業による売上高は、IT業界の中でも最大規模だといえます。

 当社はこの大きな転換によって、継続的な成長を遂げ、ビジネスの範囲も拡大しています。こうした成果を見て、当社のビジネスモデルの転換への取り組みについて知りたいという声を多くいただいていますし、私自身も、この成果をもっと多くの方々に伝えたいと思っています。

 なぜ、当社がこうした戦略を取ったのかだけでなく、その転換を支えたテクノロジーは何だったのか、どんなアプリケーションを利用したのかといったこともお伝えしたいと思っています。サブスクリプション型への転換に伴う、社内のデータ活用と業務フロー改革や、必要なデジタル人材の確保と既存社員のリスキリング、あるいはマーケティング活動から販売までの一気通貫のデータを活用するための組織改革についても共有することができます。

Chief Digital Officerに就いた西山正一氏

 CDOに就いた西山正一は2001年にアドビに入社し、日本におけるビジネスモデルの転換を推進してきた経験を持ち、また、当社のデジタル戦略のトップでもあります。アドビのCDOは、社内のマーケティングから顧客管理までのデジタル業務フローをさらに高度化させる役目を担うだけでなく、社外に対しても、当社が持つ知見を積極的に共有し、日本の企業のDXを支援する役割も担うことになります。

 また、シリコンバレーに本社がある会社であり、最新テクノロジーやスタートアップ企業に関する情報が入りやすく、どこに注目しておけばいいのかといったことも共有できます。そうした役割を対外的にも分かりやすくするために、CDOというポジションを設けました。当社の変革のストーリーを他社のCDOとも共有していきます。

仮説を立ててテストを繰り返す そこに正解はなくても進化はできる

―― アドビのDXの経験において、日本の企業に最も強く伝えたいことは何でしょうか?

神谷氏 決断力だといえます。経営者がいかに決断するかが、全てにおいて大切です。また社内では、よく「テスト」という言葉が使われます。とにかく、やってみるということです。私たちがいる世界は、やったことに対して、正解と不正解という二択で判断することはできません。むしろ、やらない方が損だという状況にあります。

 当社はテストを繰り返すことにこだわっています。例えば、サブスクリプションの試用期間を決めるのにもテストをしてみて、最適だと思われる期間を設定しています。仮説を元にテストをして、それを繰り返せば、進化をしていくことができます。正解はありませんが、正解に近づくことはできます。そのためには、テストの繰り返しが大切なのです。

 私は、当社の強みは「変化すること」にあると思います。そして、当社の社員を見ていると、その変化に耐えられる人が集まったというよりも、変化が好きな人が集まっていると感じます(笑)。創業時のアドビと、今のアドビは全く違う会社になっています。事業を拡大したり、買収によって製品ポートフォリオを広げたりといったことを繰り返し、そのたびに変化をしてきました。変化する文化がアドビそのものだといえます。

日本法人設立30周年を迎え――人の生活を豊かにする会社を目指す

―― 中長期視点で見た場合、アドビは日本においてどんな会社になることを目指しますか?

神谷氏 当社は、一部のクリエイター向けの製品を提供する会社だというイメージが強かったと思いますが、その状況は大きく変化しています。紙からデジタルへの変化は、日本の企業のDXにとっては大きな柱になります。ペーパーレス化は、SDGsの観点からも重要な要素です。あらゆる企業において、紙のデジタル化が鍵になる中で、PDFをはじめとして、当社が貢献できる部分は大きいといえます。

 コロナ禍において、デジタルコンテンツに対するニーズがより高まっています。多くの人たちがデジタルコンテンツから情報を得て、SNSを利用して自分たちのブランディングができるようになりました。日本の飲食店は、対人口比では世界で最も数が多いというデータがあります。しかし、全ての飲食店がWebサイトを作ることができず、できたとしてもメンテナンスまでは手が回りませんでした。

 SNSでは、簡易的なツールを使って、自ら発信をすることが可能になり、新たな情報への更新も簡単です。企業の規模を問わず、誰でもがブランディングができるようになってきたわけです。ここにも当社が貢献できる部分があります。さらに、教育現場でも当社に対する関心が高まっています。WordやExcelにとどまらず、より創造力に刺激を与えるようなツールとして当社の製品を活用し、成果物を作り出すといったことが始まっています。

 こうして見ると、アドビの社会的責任は数年前とは異なり、比較できないほど大きくなっていることを感じますし、社員たちも、そうした意識を持って働いていると思っています。2022年3月には日本法人の設立30周年を迎え、2022年12月には米本社の設立から40周年を迎えます。こうした歴史も踏まえ、社会的責任をしっかりと担うことができる企業でありたいと思っています。

2022年12月で40周年を迎えるアドビ本社の歩み 2022年12月で40周年を迎えるアドビ本社の歩み

―― 2022年6月に行った事業戦略説明会では、「デジタルエコノミーの推進」「デジタルトラストの実現」「デジタル人材の育成」の3点に取り組む考えを示しました。特にデジタルエコノミーの推進という観点は、これまでのアドビにはなかった視点だとも言えます。

神谷氏 日本はデジタルエコノミー、デジタルトラスト、デジタル人材という3つの課題を抱えており、この課題を解決するには、テクノロジーカンパニーである当社が貢献できる範囲は広いといえます。

 デジタルを通じて、こころ踊る体験をするには、アドビが必要であると感じてもらえたり、ワクワクする製品と言ったときに、最初に連想してもらえたりするようになりたいですね。当社はアプリケーションベンダーではありますが、人の生活を豊かにする会社だね、と言われたいと思っています。それが、アドビが目指す姿だといえます。

日本法人独自のビジョンで「人の生活を豊かにする会社」を目指す 日本法人独自のビジョンで「人の生活を豊かにする会社」を目指す
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