テクノロジーの発展を加速してきたインクルーシブな試み【Microsoft編】林信行の「テクノロジーが変える未来への歩み」(2/4 ページ)

» 2023年02月09日 07時00分 公開
[林信行ITmedia]

全ての個人がより多くのことを達成できるように

Windows 95以降、最新のWindows 11までMicrosoftは「設定」の中に「アクセシビリティ」という項目を用意し、視覚/聴覚/操作の補助機能を提供してきた。どの機能が何のためのものかが非常に分かりやすく整理されている

 MicrosoftのPC用OSは、常に市場で主流を占めるOSだった。それゆえ、1980年代には既にいくつか障害を持つ人を補助するためのソフトウェア製品が出始めていたが、同社自身がこうした取り組みを本格的に始めたのは1995年のWindows 95からだ。

 文字入力で操作するかつてのOSであるMS-DOSと異なり、Windows 95はマウス操作が主体となる。その分、視覚障害を持つ人にも、手の動きなどに制約がある人にも操作のハードルが高い。既にマウス操作で先行していたAppleのMacintoshは、Easy Accessというオプション機能が提供され、画面表示の拡大やキーボード入力の補助などの機能を実現していたが、Windows 95でも同等の機能が用意された。

 これらの機能は、その後も進化を続け最新のWindows 11では「設定」にある「アクセシビリティ」という項目の中に「視覚」「聴覚」「操作」を補助する14種類の機能としてまとめられている(「アクセシビリティー」とは利用者が機器・サービスを円滑に利用できることで、障害者の操作上の利便性を向上させる工夫を呼ぶのによく用いられる)。

数あるアクセシビリティー機能の1つとなるマウス操作の補助では、腕を前後/左右に自由に動かせない人のために、テンキーを使って上下/左右方向にポインターを動かすマウスキー機能のオン/オフや、ポインターの移動速度などを細かく設定できる

 現在、Microsoftは「地球上の全ての個人と全ての組織が、より多くのことを達成できるようにする」というのをミッションとして掲げている。そこには当然、障害者や高齢者も含まれており、これを有言実行すべくマジメに取り組んでいる印象だ。

 PCでのアクセシビリティーへの取り組みでは、Microsoftは必ずしも先駆者とは言えないかもしれないが、筆者は評価すべきポイントが3つあると思っている。

 1つは、多くの利用者を抱える大企業なだけに、業界標準規格などに沿って堅実なアクセシビリティー対応を行っていることだ。

 2つ目は、ソフトウェアによるソリューションだけでなく、ハードウェアやアクセサリーによるソリューションも提供していること。

 そして3つ目はPCだけでなく、これまでアクセシビリティーの視点が軽視されがちだったゲーム機「Xbox」においてもこれを実践していることだ。

 まず1つ目の堅実な対応でいえば、同社はアクセシビリティーを責務と考え、透明性/包括性/アカウンタビリティーの3大原則を指針に製品開発を行い、その際、「EN 301 549」(デジタルアクセシビリティーのヨーロッパ規格)、「U.S. Section 508」(米国リハビリテーション法第508条)、「Web Content Accessibility Guidelines(WCAG)」(Webのコンテンツを障害のある人に使いやすいようにするためのガイドライン)といったガイドラインへの準拠を心がけている。

 しかし、何といってもユニークなのは、こういったアクセシビリティーの機能をXboxの世界にも持ち込んだことだろう。ちゃんと公式サイトにXboxのアクセシビリティーについてのページが用意されている。

 また、そもそもXboxシリーズでは、2010年から2017年まで提供されていた人の表情や姿勢、動きなどを把握するモーションコントローラー「Kinect」が、コントローラーを使ったゲーム操作ができない人々にも、ゲームプレイの喜びを広げたとして高く評価されていた。

一部の障害者にもゲームをする喜びを広げ、好評だったKinectの開発終了後、Microsoftは障害を持つ人自身が使いやすいように操作方法をadapt(適応)させられる操作補助装置「Xbox Adaptive Controller」を開発した。この手の装置にありがちな無骨な見た目ではなく、スッキリとシンプルで見た目が美しい点にも好感が持てる

 その影響もあってか、Microsoftは2018年に「Xbox Adaptive Controller」(XAC)というより多くの人が利用できる新しいタイプのコントローラーの提供を開始する。2022年度のグッドデザイン賞では、これまで同賞の審査で見過ごされていた、この製品の魅力に改めてスポットライトが当たり審査を行った。

 その結果、5715件の審査対象の中での1番を決める大賞選出会の5件のファイナリストの1つに選ばれた(筆者は、審査員として一次審査と二次審査でも同製品を審査した)。

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