プロイラストレーターが最近のAI「どうすんだこれ感」について思ったこと(2/3 ページ)

» 2023年03月29日 06時00分 公開
[refeiaITmedia]

悪用と対立へ

 もちろん、他者に迷惑をかけないように楽しんでいるユーザーも沢山いると思いますが、イラストAIが悪用されたり、それを知って絵師さんがショックを受けていたりする例は毎日のように見かけます。

 特にStable Diffusionは、本体や拡張、モデルの開発が日進月歩で進んでいるのに加えて、自分のPCで動かせるツールなので、悪いことに使うかどうかは本人のモラルで決まってしまいます。悪用はだいたい、何らかの盗用、または著作者人格権(作品を勝手にいじられない権利)の侵害の形をとることが多いようです。

  • 他人の作品をAIの入力にした盗用
  • 他人の作品のAIの入力にした勝手な描き直し
  • 他人の作品を勝手に使った、画風再現用モデルの作成

 また、根本的なポイントとして、モデル生成に使われた大量の作品はアーティストの同意を得ていないという問題もあります。最終的に法的に保護される向きで落ち着くかどうかは分かりません。ですが、個人的には自分の作品について、他人のAIの学習や入力に使っていいかを答える機会があったならば「No」と答えると思いますし、多くのアーティストが(対価などの条件がないかぎり)「No」と答えるでしょう。

 当初は「研究用ならまあ……」という感じだったかもしれません。ですが、社会に対して責任ある態度で製品の面倒を見ない開発側と、それに乗じてモラルのない使い方をするユーザーによって、対立がまん延してしまいました。これの落としどころがどうなるにせよ、ルール作りや法的な判断がまとまってくるのはしばらく先になることでしょう。

 悪用や対立を助長しないよう、敏感に注意を払って製品の面倒を見ている「ChatGPT」は、能力を恐れられながらも各方面からそこそこ愛されています。対照的に揉め放題なイラスト分野は情けないばかりですね。

絵師はイラストAIとつきあうべきか

 さて、こんなに嫌われているイラストAIですが、自分は無視しない方がいいと考えています。まずは状況を整理しましょう。

  1. 手作業だけで描くことの価値は無くならない
  2. AIの流れが止まったり消滅したりするとは想定できない
  3. AIには良い画を出力する力がある

 まずは「1」、SNSなどでは手描きの絵が尊敬されるのは続くと思います。いくら機械が優れる時代になっても、スポーツ選手や棋士がかっこいいのが変わらないのと同じです。2018年に開催された、1 on 1で競っているかのようなライブドローイングイベント「pixiv ONE」がその好例でしょう。ただしスポーツに近いと考えるなら、「手作業だけ」を主な収入源にするのは狭き門になるかもしれません。

pixiv ONE(実際に勝ち負けが競われたわけではないです) pixiv ONE(実際に勝ち負けが競われたわけではないです)

 一方でこの価値観によって、AIイラストか手描きかどうかが簡単には分からないのも対立の原因の1つになっています。

仕事の仕方はたぶん変わる

 そして「2」ですが、業務としてのイラスト制作では、ワークフローの中でAIの活用は増えていくと思います。絵師の人格が中心にない場合、つまり「絵が必要」という問題が中心ならば、全部手描きにこだわる動機が薄いと思いますし、最終的な顧客も強くこだわらない人が多いと思います。現に、ゲーム内で絵にペンネームが添えられるスマホゲームが結構あった10年前と比べて、ゲームのイラストを誰が描いているかを気にかけないことが多くなっていませんか?

 当面は法的リスクやヘイト、後ろめたさのような意識もあるでしょうし、素早く移行するとは思いません。ですが、「Adobe Firefly」のような法的にクリアなサービスも出始めています。仕事での制作にはコストや納期の制約、他者との競争もあるため、好きに描いていれば済むものでもないです。もしAIの活用を勉強せずにがんばるならば、それなりの覚悟をもってすべきだと思います。

Adobe Fidelityは、著作権の問題がない画像だけを学習に使っていることをうたっています Adobe Fidelityは、著作権の問題がない画像だけを学習に使っていることをうたっています

趣味ならどっちでもいい

 趣味なら勝手にすればOKだと思います。徒歩で山に登っている人とロープウェイで山に登っている人がいるとして、徒歩の人がロープウェイの人に「お前は山遊びのなんたるかを分かっていない」とは言わないですし、反対にロープウェイの人は「徒歩なんて効率悪いし時代遅れ」とも言わないです。

 ずっと手だけで描くのは楽しいことだし、AIによる表現の探求も素敵なことだと思います。

先生やリサーチ・パートナーとしてのAI

 次に「3」、AIイラストは端的に言って上手いです。上手いということは表現や技法が優れていて、学ぶ余地があるということです。また、制作したいテーマを入力すれば、自分だけでは出せなかった発想が見つかることもあるでしょう。

 将棋などでは既に人間より強くなったコンピュータを利用して研究するのは当たり前ですし、ドライビングゲーム「グランツーリスモ」でも、人間より速くなった運転AIに対してトップ選手が「AIから学べることも多い」と述べています。

 ただし、イラスト分野では先に書いた通り、アーティストの同意なく収集された作品でモデルが作られている問題は残っています。ですが、例えばイラスト制作のためのリサーチをしていて、Pinterestに多分同意なく流れてきたっぽい素敵画像を誰のものとも意識せず、ガン見しているときと比べてどうかと考えると、それほど簡単ではない気がしますし、何とも言い難いところです。

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