矢野氏は、これまでのプロジェクターについて回るイメージとして「部屋を暗くしないと使えない、あまり動かすものではない」と指摘し、なぜそのようなイメージがプロジェクターの常識となってしまったのかというと、「明るいと映像が不鮮明になる、動かすときれいな映像を表示するための設定に手間がかかる」からだという。
そういった常識を覆すのが、このN1 Ultraだとした。矢野氏は「自社開発のMALCエンジンを搭載していること、ジンバルと一体型設計でシームレス台形補正を行えること」の2点をポイントに挙げた。
「3色レーザーを搭載した光学エンジン『MALC』(マルク/Microstructure Adaptive Laser control)が明るく鮮明な映像を可能にした」と矢野氏。頭文字を取ったそれぞれが、どのような役割を果たすのかを解説した。
実は、MALCエンジンに使われている3色レーザーモジュールを開発しているのは、国内企業の日亜化学工業だ。登壇した濱氏は、「通常、LED光源や単色および2色のレーザー光源を使うプロジェクターでは、光の色を変換する蛍光体を使って、青色から緑色を作っていた。なぜ緑色のレーザーダイオードを使わないかというと、物性的な問題で明るい光を出せないからだ」とし、そのため色の純度が落ちやすかったという。
しかし、同社では窒化ガリウムをベースに、プロジェクターに利用できる明るい緑色レーザーの開発に成功。これにより、赤/青/緑の「3色レーザー」を光源とするプロジェクターを実現した。
3色レーザーチップは非常に高価で、それを搭載したプロジェクターは、一部の映画館にしか導入されていなかった。しかし、パッケージサイズを大幅に小型化し、そこへ3色レーザーチップを複数実装することで、小さいのに明るく、コストを抑えた「QuaLas RGB」(クオラス アールジービー)の開発に成功。これにより、家庭向けプロジェクターに搭載することが可能になったという。
「今回、発表されたJMGO N1 Ultraが、世界で初めてQuaLas RGBを採用したプロジェクターとなる。コンパクトなのに、家庭で映画館並みの美しい映像を楽しめるようになった」と濱氏は解説した。
レーザーを光源とするプロジェクターでは、光の色純度が高く、波長がそろっているゆえに光同士が干渉し、映像がざらついてしまう“スペックルノイズ”が発生してしまう。それに対して、「上下/左右に高速振動する板で強いレーザー光を混ぜ合わせて、映像を滑らかにするJMGO独自のライトスペックル低減技術、色純度を落とさない程度に複数のレーザーチップの波長をわずかにずらすことで、光の干渉を低減する日亜化学工業の波長制御技術により対策を行っている」(濱氏)とのことだ。
明るさについては、矢野氏が「CVIA規格に則った2200CVIAルーメンだ」と言う。CVIAという聞き慣れない規格については次のように説明した。
中国では、2022年にスマートプロジェクター市場が前年比で28.6ポイント増と急成長している。しかしカタログスペックでのANSIルーメンには、誤った基準、誇大広告や紛らわしさが横行し、何をあてにすればよいか分からないといった購入者の声もあったという。
そこで中国では、新たにプロジェクターに関する規格「CVIA」(China Video Industry Association)を2023年3月に策定した。出力の様式標記や技術要件、テスト方法を統一したものなので、「誇大広告が入り込む余地がなく、安心して購入できる」(矢野氏)という。
続けて、CVIA規格で2200ルーメンとしたN1 Ultraと、ANSI規格で1840/2200/3200ルーメンのものと比較したスライドが投影された。
同じ2200ルーメンのプロジェクターでも、CVIA規格のものの方がより明るく、色再現性も高く、くっきりとしている様子が示されていた。
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