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VAIOは成長フェーズへ PC事業への回帰で周辺デバイスやリファービッシュ品も投入 VAIO Pの後継モデルも!?IT産業のトレンドリーダーに聞く!(VAIO 後編)(2/4 ページ)

» 2023年04月28日 12時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

特にOne Teamという言葉が重要だ 新たに行動理念も策定

―― 「自由闊達」や「プロフェッショナル」といった言葉は、VAIOを象徴する言葉と理解できます。一方で、「誠実」や「敬意」という言葉を、行動規範の中に、あえて盛り込んだ意図はなんでしょうか。

山野 顧客志向やお客さまファーストという言葉を理念の中に入れる企業は多いのですが、「誠実」や「敬意」という言葉を組み合わせると、顧客志向という意味になると思います。

 社員が議論をする中で、この2つの言葉を盛り込むことが大切であるという結論に行きついたわけです。これらの5つの言葉はどれも重要であり、私自身、とても気に入っている言葉ばかりですが、特にOne Teamという言葉が重要だと思っています。

 VAIOは、とてもチームワークがいい会社です。全ての機能が安曇野に集まり、トラブルが発生した際にも、関係する部門の社員がすぐに集まって、迅速に解決に取り組むといったことが日常的に行われています。コロナ禍では部品の供給が遅れたり、部品の品質不良が発生したりといったことが起きましたが、このときにも関係部門が連携し、迅速に対応し、克服するといったことが行われてきました。

 こうしたことを、きちっとできる会社は少ないといえます。特に企業規模が大きくなると、拠点が分散したり、階層が増えたりといったことで、対応にも時間がかかってしまうことが一般的です。VAIOは企業規模が大きくなっても、VAIOの強みであるOne Teamの姿勢を保ってほしいという、将来の姿への期待も込めています。

 One Teamを維持するために、これまで以上に情報共有を密に行うための仕組みも用意しています。社内ポータルサイトを刷新したのもその一例です。また、安曇野にいる設計部門と、都内にいる営業部門との連携を強化すべく、隔週で情報交換会を行っています。設計部門はVAIOのモノ作りのこだわりを営業部門にしっかりと伝え、営業部門はお客さまからのフィードバックを設計部門に伝える。これによって、もっといい製品が開発でき、もっといい営業活動が行えるようになります。

 安曇野のチームは「作ることが役割」と思っていて、それに専念している傾向が強かったので、東京ではこんなダイナミックなことが起きているとか、こんな商談が獲得できたという話に対しては、やや興味が薄かった部分もありました。設計部門と営業部門が、お互いの仕事も自分事として捉えることで、One Teamとしての一体感がより高まることなります。

VAIO F16 F14 安曇野 インタビュー

VAIOの新事業は「飛び地」だから失敗する 経験したから分かったこと

―― 山野社長は三菱商事に入社し、米国駐在後、三菱商事投資先のコンサルティング会社やコールセンター企業の社長などを経験した他、三菱商事のITサービス事業本部長、シンガポール支店長なども歴任しています。テレコム業界やIT業界を中心に多数のグローバル事業の開発、事業投資、アライアンス構築を手掛けてきましたが、これらの経験は、VAIOの経営にどう生かされていますか。

山野 製造業に関わるのは初めてなのですが、実は、若い時に携帯電話事業に携わったことがあります。三菱電機製の自動車電話や携帯電話を米国で販売する事業を担当し、そのときに工場とはかなり緊密なやり取りをしていました。

 PCと携帯電話はかなり近い部分があります。量産を前提とした電子機器であり、販売ルートの構造も似ており、需要予測をもとに部材調達や生産予測を行うという点も同じです。VAIOに来た時には、少し懐かしさも感じましたよ(笑)。

 また、これまでの経営の経験をもとに、最適な意思決定のプロセスをVAIOに取り入れたり、仕組みを再構築したりといったことにも取り組んでいます。VAIOでは、ニュービジネス(NB)事業を止めましたが、三菱商事時代に「飛び地」のビジネスをやると必ず失敗するという経験と学びから、確信のもとに決定したことです。私は海外経験が長いですから、これからの海外事業の成長に向けて、経験を生かせる部分は大きいと思います。

―― VAIOは、ほぼ2年ごとに社長が交代してきた経緯があります。山野社長が、経営トップとして果たす役割とは何でしょうか。

山野 私の役割は、持続的な成長基盤をVAIOに構築することです。社員にも、そう宣言しています。ソニーから独立したVAIOは、さまざまな課題を克服しながら、ここまで事業を継続してきました。

 しかし、この方向性でやっていけば、隆々とした会社に成長できるという確信が持てていない状況にあったのも事実です。成長していくという確信を、社員が持つことができる企業にしなくてはならないですし、逆に確信が生まれれば、それに向けて動き出し、やり遂げる力があります。その確信を植えつけることが私の役割です。

 理念をしっかりと作ったというのも、そのための活動の1つです。また、SFA(セールスフォースオートメーション)を導入し、営業管理を徹底するとともに、部材の手配や調達、生産計画の立案、販売計画をシステム上で紐づけるようにしたことで、経営の効率化と経営基盤の強化ができました。これも、次の成長に向けた取り組みの1つになります。

VAIO F16 F14 安曇野 インタビュー 2024年5月期(VAIOの新年度は6月から)には、1.5倍の出荷台数を目指すなど、VAIOは成長フェーズに入ったという

―― VAIOは、2022年5月期の売上高が前年比3%増の224億円、営業損益は2億円の赤字となりました。赤字は2015年5月期以来、7年ぶりです。その一方で、2023年5月期は、前年比1.6倍の成長を見込み、過去最高の業績となる他、2024年5月期にはさらに販売台数で1.5倍の拡大を目指しています。成長路線に舵を切ったといっていいですか。

山野 VAIOは成長フェーズに入りました。今までは、VAIOが持つポテンシャルを生かせていなかったという反省があります。しかし基盤が整い、本業にフォーカスし、成長を牽引するための製品も出来ました。

 2022年5月期の赤字は、PC需要の低迷に加えて、半導体不足によるキーデバイスの入手が困難になったり、部材価格が高騰したり、中国ロックダウンの影響によるサプライチェーンの混乱といったことがあり、新製品の発売も遅延しました。また、急激な円安の進行も業績悪化の要因となりました。

 実は2022年度から、3カ年の中期経営計画をスタートしているのですが、計画策定時点に比べると、依然として20円以上の円安になっています。このままでは現実的な計画ではなくなっているので見直す必要があると思っています。しかし、売上高については、今年度は計画を上回るペースで成長を遂げています。2023年5月期の売上高は300億円台後半に、2024年5月期には500億円から600億円の売上高を目指します。

 ただ、売上高500億円の規模では、まだ景色は変わりません。景色が変わるのは1000億円になってからです。1000億円という規模にならないと、いろいろなところで土俵の上には乗りづらい状況が続くことになるでしょう。そのためには、プレミアムPC市場でのビジネスだけでなく、スタンダードPC市場でもしっかりと存在感を発揮する必要があります。500億円は通過点にしか過ぎません。

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