1981年に設立された米ボストンの経済コンサルティング会社であるAnalysis Groupが、App Storeの経済効果について調査報告を発表した。調査をしたのは、ジュリエット・カミナード(Juliette Caminade)博士とジョナサン・ボーク(Jonathan Borck)博士だ。
詳しい情報はAppleの日本語プレスリリースにも掲載されているが、ここではいくつか重要事項をまとめてみたい。
まずは、2022年のApp Storeの経済効果について見ていこう。
App Storeの経済効果というと、有料アプリやアプリ内課金の売上ばかりに目が行きがちだが、実際にはそれらに加えて、例えば配車サービスや宅配サービスなどの物理的サービスの売上、さらにはアプリ内広告による収益も加わる。
同社によれば、2022年のApp Storeの経済効果は1.1兆ドル(約153.7兆円)に上るという。
App Storeの売上というと、Appleに15%(大企業の場合は30%)の手数料を払う有料アプリやアプリ内課金を思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、実はそれは氷山の一角に過ぎず、むしろ、それ以外の収益モデルの方が圧倒的多数であることが浮き彫りになった。
実は売上の90%以上が、サービス提供会社独自の課金システムなど、AppleやApp Storeを介さない形で支払われているという。
今回の報告書がもう1つ明らかにしたのが、コロナ禍でApp Store経済が急激な成長を遂げたという事実だ。年率27〜29%のペースで成長を続けている。
Analysis Groupでは、App Storeで2桁成長が続いている状態を「活況を呈し、イノベーションや競争が続く、栄えた市場に共通してみられる状態」と分析している。
それにしても1.1兆ドルというのはすごい売上高だが、どのような構成比になっているのだろうか。報告書によれば1.1兆ドルのうち、アプリの売上やアプリ内課金によるデジタルグッズの売上は1040億ドルで全体のおよそ9%になる。圧倒的に大きいのは物理的な商品やサービスの購入で9100億ドル、全体のおよそ81%を占める。アプリ内広告は1090億ドルで10%だ。
大きく伸びた物理的なグッズやサービスの売上をさらに細かくみてみると、2019年と比べると食料雑貨関連のアプリの売上は3.5倍、宅配サービスは2.3倍になる。2020年と比べて小売系アプリの売上が64%増で、2021年との比較では旅行関係サービスの売上が84%増、配車サービスは45%増といった具合だ(比較対象は全て2022年の売上)。
気になる日本での売上は、およそ460億ドル(2022年)と全体の4%ほどの規模だ(韓国は290億ドル、オーストラリアとニュージーランドは合わせて140億ドル)。やはり、ここでも日本の市場は特別なのだろうか。おそらくゲームのアプリ内課金が利いていると思われるが、デジタルコンテンツの売上が30.4%と他の国と比べてかなり高い(米国15%/中国3%/欧州9%)。またアプリ内広告の売上も15%と比較的高い(米国18%/中国4%/欧州12%)。
こういった国ごとの差はかなり大きく、例えば米国では行動制限がなくなってから旅行系サービスの売上が顕著に伸びているのに対して、中国は他の国と比べて行動制限の期間が長かった分、旅行サービスの売上が回復するのが遅いといった具合である。
それだけに大きなチャンスを狙う小規模の開発者は、1つの市場だけに絞らず世界に目を向けて事業を展開するのが良さそうだ。
ちなみに報告書によれば、App Storeでは圧倒的に小規模開発者の活躍が目立ち、登録開発者の9割が小規模開発者だという。そうした開発者のうち80%が国をまたいで複数のストアで事業を展開しており、小規模開発者全体の27%が中国や日本の企業だという。
コロナ禍に登場した小規模開発者は不安定な世界情勢でも堅調で、2020年から2022年にかけて売上が71%も伸びていることも明らかになった。
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