Appleが新しいCMを公開した。タイトルは「iPhoneのプライバシー|待合室」だ。
「またプライバシーのCM?」と思う人がいるかもしれない。しかし、今回は少しアングルが違う。「健康データ」のプライバシーがテーマなのだ。
「どこが違う?」「興味がない」という人も多いだろう。しかし、「健康データ」のプライバシーは医療を発展させ、世界の人々がより健やかに暮らせる未来の実現にも極めて重要だ。Appleは、この重要な「健康データ」のプライシーを守るべく、どんな取り組みをしているか詳しく紹介するホワイトペーパーも同時に公開した。
そのタイミングで、Appleで臨床チームのシニアマネージャー、つまり健康データ活用の責任者であるローレン・チャン(Lauren Cheung)博士と、同じくAppleのプライバシーエンジニアリングの責任者であるケイティ・スキナー(Katie Skinner)氏に独占インタビューする機会を得た。
以下では「健康データ」のプライバシーがなぜ重要で、Appleがそれを保護するためにどのような製品デザインを行っているかを紹介したい。
「面白おかしく作られたCMではありますが、ここではAppleにとって非常に重要な、健康データのプライバシーの重要性を訴えた作りになっています。Appleは人々が自らの健康データをうまく活用できるようにすることで、人々の健康を民主化すること、つまり誰もが健康でいられる社会にすることを目標に掲げています」
そう語るのは、ローレン・チャン博士だ。博士はAppleに入社する前、スタンフォード大学医学部で、世界でも最も先進的なデジタル時代の新しいプライマリーケア(一次医療)を模索していた。
一次医療、つまり患者に対して最初に行われる医療は、総合的な診断処置や患者への指導であるべきと言われている。チャン博士のスタンフォード大学のチームはAppleのHealthKitを採用して、患者により的確なアドバイスを行う研究をしていた。
「健康は、私たちが1日1日どういう行動を取るかの積み重ねで決まります。これに対して医師と会って話をするのは、おそらく1年に2日くらいです。そのため、私は病院に来ていない間のことも含めて、患者のことをもっと深く理解することが重要だと思っていました。iPhoneのHealthKitなどで集められる健康データは、こういった本質的な医療を施す上で重要なのです」と語る。
待てよ? 健康データを保護する話ではなくて、共有する話になっている?
その通りだ。Appleは「健康データ」のプライバシーを保護して、自分以外の誰もが見られなくしようとしているわけではない。そうではなく、かかりつけの医者などの信頼できる人には積極的に共有して適切な医療に役立ててもらう。そのためには、もし医師と本人が望めば、さらにプライベートな健康データもどんどんiPhoneで収集して、医師に共有していこう、というのが健康データのプライバシー保護の考えの裏にあるテーマなのだ。
ただ、ここでiPhoneだったり、その上で動くヘルスケアのアプリだったりが、許可なく勝手にあなたの健康データを保険の営業や広告業者などに共有してしまうと、あなたはiPhoneを信頼して健康データを預けられなくなってしまう。それによって、医師が適切な医療に必要な健康データも減ってしまう。それでは本末転倒だ。
チャン博士は、こう説明する。
「Appleの製品は健康以外の分野でもプライバシーを重視していますが、健康データのプライバシーは特別重要だと考えています。私は医師であり、ある種の会話は非常にデリケートであることをよく理解しています。患者は、時には誰にも話したことのないような情報を話しますよね。それは、私たちの会話のプライバシーが守られていると確信しているからです。そして、私たち医師がその情報を誰にも漏らさないことを知っているから話せるのです」と語る。
さらに「私たちは、健康のための機能を開発するとき、どの情報を誰と共有するかを判断するのは使う人自身であるべきだと信じています。また、その情報の共有をいつでも止めることができることも重要だと思っています。私たちの健康関連の製品は、そうした部分を非常に重視したデザインを採用しています。プライバシーは、そもそもの製品のアイデア出しの段階から、重視されている要素なのです」と説明する。
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