Intelは6月5日(米国太平洋時間)、同社が2024年に生産を開始する予定の半導体プロセスで使われる裏面電源供給技術「PowerVia」の近況を明らかにした。2023年内に発売予定の「Metor Lake」の高効率コア(Eコア)をベースにテストチップを作成し、裏面電源供給の有効性が確認できたという。本件に関する論文は、6月11日〜16日に京都で開催される「2023 Symposium on VLSI Technology and Circuits」に合わせて公開される。
PowerViaは、Intelが2024年に生産を開始する予定の新プロセス「Intel 20A」で採用される予定の技術で、新たな電源半導体「RibbonFET」とセットで用いることでコンパクトでも高い性能を備えるCPUを実現するという。
従来のトランジスタ技術では、動作に必要な電力線と信号線は基板の“表面”に配置される。しかし、プロセスの微細化が進むにつれて、1本の電力線と信号線が「競合」関係になり、互いに足を引っ張ってパフォーマンスの低下を引き起こしてしまうという問題が発生しているという。
パフォーマンスの低下を抑える方法としては、「電力をより多く突っ込む」という方法もある。しかし、それではCPUの消費電力(と発熱)がより高まってしまうため、現実的とはいえない。
もう1つの方法として、複数の半導体メーカーは電力線を半導体の裏面に移す「裏面電源供給(Backside Power)」の実現を考えてきた。信号線は表面、電力線は裏面とすることで相互の干渉を抑え、消費電力を抑えつつパフォーマンスを向上できるようにしようという算段である。Intelも例外でなく、「PowerVia」と銘打って検討を続けてきた。
「なぜ、分かっていてやらなかったのか?」というと、「現在の作り方の方が簡単で、今までは問題なかったから」だそうだ。
しかし、裏面電源供給のトランジスタを作らないことには、今後のCPUの性能向上は難しくなってしまう。そこでIntelは「ピザ(≒片面実装のトランジスタ)作り」をやめ、裏面電源供給(PowerVia)トランジスタの技術開発と実装に注力することにしたという。
PowerViaを適用したトランジスタ作りは、まずウエハー上にトランジスタを構築し、そこに信号線(相互接続層)を追加する。ここまでは、従来の作り方と変わりない。
信号線を追加した後、PowerViaではウエハーを“ひっくり返して”研磨を行い、電力線をつなぐための層が露出したら、信号線を載っける。ゆえに「ウエハー上に残るシリコンは微量」となる。
先述の通り、IntelはMeteor LakeのEコアをベースにPowerViaのテストチップとして「Blue Sky Creek」を作った。この実験を通して、同社は以下の結果を得られたという。
Intelとしては「より少ない電力で作業を早く完了できるようになるという観点で、(多くのユーザーにとっての)『ムーアの法則』を再び実現できる」としている。
なお、このチップには検証チームに気付かれないように「意図的なバグ」を仕込んでいたようだが、検証チームはそれをしっかり見つけられたとのことで、万が一不具合が発生した場合でも検証を問題なく行えそうとのことだ。
裏面電源供給には、チップの発熱特性や信頼性といった、開発上において参考にすべきデータの蓄積がないことが課題としてある。そこでIntelでは、当初計画ではセット実装を前提としていたPowerViaとRibbonFETの開発を“分離”して進めることになった。
分離した結果が先述のBlue Sky Creekの誕生で、これにより「PowerViaの有効性を先んじて確認できた」としている。また、RibbonFETを実装するIntel 20Aプロセスとの“中間”存在として従来のトランジスタ(FinFET)を搭載した「Intel 20A De-risk(リスク回避版)」も設計できるようになったそうだ。
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