以前の記事でも紹介した通り、IEEE 802.11ax規格の6GHz帯では、通信速度やエリアカバーを重視した「標準電力(SP)モード」、屋内限定運用を想定した「屋内低電力(LPI)モード」、送信電力を抑制した「超低電力(VLP)モード」と3つの電波モードが定義されている。
現在、海外ではLPIモードにおける子局(クライアント)同士の通信を許可するかどうかを巡り議論が交わされている。子局同士の通信を許可することは、「PCやスマホからの無線ミラーリング」「PCやスマホにおけるP2P(Peer to Peer)通信によるゲーミング」「親局(アクセスポイント)を介さないスマート家電の制御/設定」など、周波数の有効活用の観点でメリットは大きい。
海外での議論に歩調を合わせる形で、日本でも5.2GHz帯及び6GHz帯無線LAN作業班においてLPIモードを使った子局間通信を実現する方法の検討が進められている。
日本では、LPIモードの利用を屋内限定としている。つまり、この規制を厳格に順守するには子局同士の通信であっても親局(≒屋外に持ち出せない/移動できない局)の存在を常に検知できるようにするなど、屋外で通信させない対策を施さなければならない。そこで本検討会では、LPIモードでの子局間通信をする際に、以下の要件を設けることを提案する方針だ。
いずれも不用意に親局の目の届かない場所(≒屋外)においてLPIモードで通信されることを避けるための措置だ。
なお、VLPモードでの子局間通信については、より省電力で元から屋外利用も想定されていることから上記の要件を適用しない。
6GHz帯の無線LAN利用と同時に、自動車内での5.2GHz帯(W52)の無線LANの利用も解禁されたが、通常の「屋内」での利用と比べると親局/子局のどちらにも厳しい利用要件がなされている。
一方で、ヨーロッパでは自動車内での5.2GHz帯無線LANに関する要件が改定された(参考リンク:PDF形式)。これを受けて、日本でも総務省に「自動車内に持ち込む子局なら、空中線電力(※4)と最大EIRP(※5)の制限は緩和しても良いのでは?」という旨の要請が寄せられたという。
(※4)アンテナに供給する電力
(※5)EIRP(実効ふく射電力):一定方向に輻射される電波の電力
そこで本研究班が検証を行った結果、自動車内に持ち込む子局(スマホなど)については、自動車内の親局の制御を受けて通信することを条件に、許容する空中線電力/最大EIRPを40mWから200mWに引き上げることを提案する方針を決めた。
なお、親局側の要件に変更はない。
順当に行けば、本研究班の提言案は、情報通信審議会での議論を経て総務大臣に答申され、答申を受けて法令改正に向けた手続きが進められることになる。
今後は6425MHz〜7125MHzをどのように使うかという検討に焦点がシフトしていくだろう。先述の通り、この帯域は国/地域によって使われ方が異なる上、日本では干渉を避けられない既存用途が存在している。国際的なハーモナイズと国内の電波事情にどうやって折り合いを付けていくのか、注目したい。
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