米IEEEは現在、新しい無線LAN規格「IEEE 802.11be」の策定作業を進めている。ちまたでは「Wi-Fi 7」とも呼ばれるこの規格は、現時点において「Draft 3.0」という暫定版となっており、2024年秋をめどに正式版に移行する予定となっている。
IEEE 802.11beは、利用する電波の帯域幅の拡大(最大160MHz→最大320MHz)や変調の高度化(1024QAM→4096QAM)、MLO(※1)への対応などによって、理論上の最大通信速度が9.6Gbpsから46Gbpsへと一気に引き上げられる。下手な有線LAN(イーサネット)よりも規格上は高速な通信を行えることになる。
しかし、日本においてそのポテンシャルを生かすには、電波法と関連する総務省令(以下まとめて「電波法令」)のさらなる改正が必要となる。現在進められている議論を簡単にまとめる。
(※1)Multi Link Operation:離れた帯域の電波をまとめて通信することで、通信速度を引き上げる技術(モバイル通信において「CA(キャリアアグリゲーション)」と呼ばれる技術とほぼ同じ)
IEEE 802.11beでは、現行のIEEE 802.11ax(Wi-Fi 6/6E)と同様に「2.4GHz帯」「5GHz帯」「6GHz帯」での通信を想定している。これら3つの帯域のうち、6GHz帯での通信は2022年9月に施行された改正電波法令によって“解禁”されたばかりである。
IEEE 802.11beで「320MHz幅」の通信を行う場合は、6GHz帯でのみ利用できる。無線LAN通信以外にも使われている2.4GHz帯や、一部でレーダー通信との干渉を考慮しなければならない5GHz帯と比べると、6GHz帯なら広い帯域を確保しやすい状況にあるからだと思われる。
総務省の「5.2GHz帯及び6GHz帯無線LAN作業班」では、5.2GHz帯(※2)と6GHz帯の無線LAN利用について検討を継続的に行っている。現在の主な議論の1つが、IEEE 802.11be規格を受け入れるための要件定義である。
(※2)5GHz帯のうち「W52」と呼ばれる帯域
この作業班による検討の結果、現状の要件でもIEEE 802.11beの導入自体は可能とされた。ただ、320MHz幅のチャンネルを確保する方法が唯一にして最大の課題として横たわっている。
というのも、日本ではIEEE 802.11ax/beが定義している6GHz帯を以下の理由からフル活用できない状況にあるからだ。
現在の日本で利用できる6GHz帯は、500MHz幅(5925〜6425MHz)である。単純に(≒周波数の重なりがないように)考えると、320MHz幅のチャンネルは1つしか確保できない。1つしかチャンネルがないとなると、320MHz幅を使うアクセスポイントが近くにある場合に干渉でスループット(実効速度)が低下してしまう。
そこで本作業班では、帯域の一部重複を許容する形で、320MHz幅のチャンネルを2つ設置する案を提示する方針を固めた。一部重複によるスループットの落ち込みは避けられないが、完全に重複(=同じチャンネルで競合)する場合と比べれば、落ち込む幅は抑えられる。
理論的には、IEEE 802.11ax/beの定義する6GHz帯(5925MHz〜7125MHz)を“フル”に使うと、320MHz幅のチャンネルを重複なしで3つ確保できる。しかし、現時点で認可されていない帯域(6425MHz〜7125MHz)のうち、一部(※3)については共用が困難(干渉による影響が大きい)とされていることなど、320MHz幅の“重なりのない”チャンネルを複数用意するのは、少なくとも短期的には困難だと思われる。
(※3)公共/業務無線(6570MHz〜6870MHz)の一部帯域と、電波天文システムの全帯域(6650〜6675.2MHz)
IEEE 802.11beの受け入れに必要な「320MHz幅」の議論の他にも、本作業班では6GHz帯における「LPIモード」の扱いや、自動車内における「5.2GHz帯」の扱いに関する検討も進められている。
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