―― アイコムの歴代社長の中では、初の営業畑出身の社長となります。
中岡 米国で20年間に渡り、社長を務めていた経験は生かすことができると思っています。ただ、社員の半数以上を技術者が占める技術系の会社ですし、私に社長が務まるのかどうかは、最初は不安な部分がありました。
3回ほど考えさせてほしいと返事をして、ようやく受ける決意をしました。「お前しかない」と言われたことも大きかったのですが、受けると返事をした途端に、「本社と子会社は違う。メーカーとして一番大事な設計も、生産もある。難しいぞ」と脅かされました(笑)。
株主総会までの約半年間は社長代理の期間とし、それを経て、社長に就任しました。私は、一人で全部できるとは思っていませんでしたから、社長就任に伴って、執行役員で構成する経営推進チームを編成しました。さまざまな部門を担当する執行役員が週1回集まり、役員会や経営会議とは異なる雰囲気でフリーディスカッションをする場にしています。
これは今でも続けていて、課題に対して、忌憚(きたん)のない意見を出し合っています。経営推進チームには、技術部門出身の執行役員が3人参加しており、私が設計、製造の知識が十分ではないところを補完してくれています。
―― 社長就任のタイミングは、コロナ禍の真っただ中でしたね。
中岡 部材の調達にはかなり苦労しましたが、市場に流通した部品があれば、少し高くても購入し、製品出荷を優先しました。ただ、コロナ禍は逆風ばかりではありません。コロナ禍において、イベントが相次いで中止となり、トランシーバーの売れ行きは停滞しましたが、巣ごもり需要によってアマチュア無線をもう一度始めてみようという人が増加しました。ウクライナ情勢の影響で、どんなところでも使える衛星無線に対するニーズが世界各国で増えました。円安も海外事業が3分の2を占めるアイコムにとってはプラスに働き、2022年度の売上高は過去最高を達成しています。
―― 若い時から、米国で様々な経験をした中岡社長から見て、20代、30代のビジネスマンに対して、今やっておくべきことをアドバイスしてもらえますか。
中岡 米国50州を回る必要はないと思いますが(笑)、会社の名前が知られていなかったり、知名度がなかったりといった場所で、自らの製品の特徴や会社の強みをしっかり伝える経験をすることは大切だと思います。
例えば展示会のブースに立って、説明員になるのもいい経験になります。どんな質問が来るか分かりませんし、自分の会社の製品のことを「知らないのか」と言われないように、しっかりと勉強しなくてはなりません。20代〜30代は、現場に出ることが成長につながります。
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