akarecoを開発したのは、中小企業の経営支援事業を提供している2019年設立のジギョナリーカンパニーだ。このサービスのキャッチコピーに「40代からはじめる」と付けた意図について、同社代表取締役CEOの市川航介さんはこう語る。
「私もちょうど40歳なので実感があるのですが、デジタルの道具や金融資産、アカウントなどをたくさん持つようになるのは30代〜40代かなと思います。デジタルに関しては、この世代こそが持ち物を整理しておかないと周囲が困るんじゃないかということで中心に据えました。もちろん、それ以上の世代の方々にも使ってもらいたいと考えています」
発想の直接のきっかけは、「亡くなった子供のiPhoneが開けない」という知人からの相談だったという。ロックがかかったスマホの中身を確かめることは非常に困難だと分かり、解決策はないものかと調べるようになった。その結果、デジタル製品やサービスを多く抱える世代が自身で管理して、万が一のときに引き継げる仕組みが必要だという考えに至った。
ただ、30代や40代から死後について備え、無事に長生きしたら半世紀ほどの時間を併走することになる。厚生労働省が公開している令和4年簡易生命表によると、男性の平均寿命は81.05歳、女性は87.09歳だ。相当先の将来まで見据える必要がある。
「長く続ける責任があると思います。弊社は300年企業を目指していますが、会社が立ちゆかなくなっても事業譲渡したり、生命保険や信託銀行と連携したりといった方法で継続する道を模索したいと考えています」
料金設定も、つながりが視覚に残ることを意識した。長期契約を想定しながらも、年額ではなく月額としているのは、クレジットカードの明細に毎月残るようにとの意図からだ。その上で金額をワンコインに抑えたかった。
「毎月1000円や900円だと契約者の方の負担が大きく、かといって50円や100円だと事業として成立させるのが難しく。さまざまな兼ね合いから450円(税込み495円)に着地しました」
この模索がリリース後も続いているのは、2023年9月から39歳以下までは無料で使えるようにする方針を追加したことからもうかがえる。
事業として成立させつつ、デジタルの持ち物をきちんと引き継げるように備えることを大人のたしなみとして定着させたい。そこにはもう1つの壁があることが分かった。「生きている間には知られたくない」という契約者側の思いだ。
継承者を登録したときに、継承者のメールアドレスに通知がいく設定をオフに切り替えられるようにしたのは、上記の意見を反映したためだという。
「登録時に継承者に通知がいかない設定にした場合、契約者の最終ログインから約2カ月後に我々から継承者の方にメールを送信することになります。しかし、この方法は気づかれずに終わるリスクがやはり高くなると思います」
継承者は死亡通知書を用意して、運営に送るという作業をする必要がある。生前に何も伝えないということは、サービスの概要や信頼性、実際の手続きなどの調査と判断まで相手に丸投げするのに等しい。迷惑度は上がり、確実性は著しく低下する。
ただ、「生きている間には知られたくない」気持ちも理解できるし、伝えるタイミングを計る必要もあるだろう。この辺りのことをきちんとシミュレーションしておくことが、デジタル時代の大人のたしなみなのかもしれない。
当面の目標は、1年間で3000ユーザーを獲得することだという。akarecoの1年後に期待したい。
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