ここまでの説明で、iPhone上のマイナンバーカードが、プラスチックのマイナンバーカードよりも安全であることが理解してもらえたと思う。しかし、SNSを見ていると、“それ以前”の部分で疑問を持っている人も多そうなので、そのいくつかに答えたい。
まず「iPhoneだけに対応するというのは、公平性の観点からどうなのか?」といった意見をいくつか見かけた。
ここに対する答えは明快だ。実は認知度が低いだけで、AndroidスマートフォンではiPhoneよりも前、2023年5月からマイナンバーカードの電子証明書を搭載できるようになっている。
比較的新しい「おサイフケータイ」対応モデル(※1)であれば、マイナポータルへのアクセスや各種行政手続きのオンライン申請、コンビニエンスストアでの住民票の写しや印鑑登録証明の取得が利用できる他、証券口座の開設や住宅ローン契約なども行える。2025年度には、マイナ保険証としても利用できるようになる見通しだ。
(※1)新しいおサイフケータイのNFC/FeliCaチップは「GP-SE」と呼ばれるICチップを統合している。Androidスマホ向けの電子証明書は、Javaアプリ「JPKIアプレット」の一部としてGP-SE上に書き込まれるため、GP-SE非搭載の古いおサイフケータイでは利用できないことになる。なお、iPhoneのマイナンバーカードも同様の仕組みで実装される
なお、対応機種はホワイトリスト式で、ハードウェア的な要件を満たしていても非対応とされることもある。詳しくはマイナポータルのFAQサイトで確認してほしい。
なお、iPhoneのマイナンバーカードは2025年春時点で最新のiOSに対応するiPhoneで利用できる見込みだ。
iPhoneに先行する形でマイナンバーカードの電子証明書機能を切り出して実装したAndroidスマートフォンの場合、「マイナポータルアプリ」がiPhoneにおけるウォレットの代わりにデータの書き込みを行っているまた、そもそもマイナンバーの仕組みが必要なのか、という疑問を持っている人も少なくない。マイナンバー制度は一時、「国民総背番号制」と“やゆ”される向きもあった。この仕組みによってプライバシーが脅かされたりする危険はないのか――そのような疑問を持つ人も多い。
その可能性が全くないとはいえない。しかし、それはiPhoneやAndroidスマホに搭載されるマイナンバーカードの機能ではなく、どちらかというとマイナンバーを使って、どのような情報を“集約”できるようにするのかという制度面の問題だ。ただし、マイナンバーを使って情報のひも付けを行うかどうかは個人の意思で行うことになっているので、プライバシーは自分でコントロールできる状況にある。
マイナンバーカードは、その「ひも付け」をオンラインで行うために必要な“鍵”となるものだ。
マイナンバー制度は、日本に住民登録している個人が「1つの番号で行政手続きを効率的に行えるようにする」ことを目的に作られている。ただし、番号による情報のひも付けを行うかどうかは任意で、自分でコントロールできる実際、請求書用にはマイナンバーとは異なる「インボイス制度」の番号(※2)が用意されていたりとと、プライバシーに配慮して、政府や自治体による番号管理は、必ずしも全てが完全にひも付けされているわけではない。
(※2)適格請求書発行事業者番号
では、そもそもマイナンバーカードを使うことにどのようなメリットがあるのか? インボイス制度など、フリーランスや企業の手間や負担が増えることに対して全く無頓着な政策が散見される中で、マイナンバーカードと「e-Tax(国税電子申告・納税システム)」を使った確定申告は、申告にかかる手間を劇的に軽減するものとして知られている。
また、既に「メルカリ」など一部のアプリ/サービスでは、マイナンバーカードを使った本人確認にも対応している。アプリからマイナンバーカードの暗証番号(パスワード)を入力して、マイナンバーカードを当てると本人確認が完了する仕組みだ。
また、マイナポータルなど一部のサービスでは、Androidスマホにおいて生体認証(またはスマホのロック解除認証)をした上で、スマホの電子証明書を読み出して本人確認を行える。iPhoneでも、あと約1年でこの利便性を享受できる。
Android版のマイナポータルアプリでは、生体認証またはスマホのロック解除(PIN/パスワード/パターン)によって本体に格納した電子証明書を読み出して本人確認を行える。iPhoneのマイナンバーカードでも、同じことができることが発表時点で明記されている2024年初めの「令和6年能登半島地震」では、被災した持病を持つ人たちがマイナ保険証を使い、過去に処方された薬の記録をすぐに確認できたことで、無事に薬を処方してもらうことができたという実績が医療機関から報告されている。
また医療機関としては、東京都医師会がマイナ保険証の必要性を積極的に訴えている。東京都では、医療関係者の不足により医療機関の連携が欠かせなくなるという。その観点で、患者の同意が前提となるが、カルテや特定健康診断の結果を共有しやすいマイナ保険のような仕組みの成立が重要だという考えに立っているのだ。
一方で、東京都医師会の尾崎治夫会長は、政府が従来の保険証を無くそうとする動きには「(マイナ保険証が)信頼のおける制度になってから廃止するのが道筋ではないか」とも語っている。
ちなみに、同医師会もプライバシーには十分配慮しており、Appleの「HealthKit」という仕組みも高く評価している。プライバシー保護の観点からも、最も理想的な医療の仕組みは「PHR(Personal Health Record)」、つまり患者1人1人が自分の健康情報を持ち歩き、病院に求められた時だけ情報を共有するというものだと言われている。
実は、AppleはHealthKitでそれを実践している。
コロナ禍において、政府は市町村や特別区を通して給付金を配ろうとした。しかし、振り込み先となる預金口座の把握に時間を要した上、市町村や特別区の事務的/財政的負担がかなり大きくなってしまった。財政的負担は国がカバーしたとえはいえ、時間もお金も膨大になってしまった。
その反省を踏まえて、政府はマイナンバーを活用した「公金受取口座登録制度」を創設することになった。マイナンバーカードを保有している人は、マイナポータルを通して給付金などの入金口座を登録できる。
このようにマイナンバーの仕組みには、良い面もあれば悪い面もある。政府がこの仕組みをどのように利用しようとしているかを監視することは重要だが、良い面をうまく活用すれば、多くの無駄な仕組みを簡略化できる。
iPhoneのウォレットアプリで「マイナンバーカード」 2025年春後半から予定
Appleが「健康データ」のプライバシー保護にこだわる真の理由
マイナンバーカードの「スマホ電子証明書」を使う 注意すべきポイントは?
マイナンバーカード機能のスマホ内蔵で何が変わる? 「誤解」と「期待されること」
Androidスマホで「マイナンバーカード」の電子証明書を利用可能に 2023年5月11日からCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.