「驚きがないPCメーカーになる」の真意 電撃退任したマウスコンピューター 小松社長の18年におよぶ歩みを振り返って分かったこと(2/3 ページ)

» 2024年06月20日 15時30分 公開
[大河原克行ITmedia]

とにかく「品質」にこだわって「驚きがないPCメーカーになる」

 小松氏が、ずっと重視してきたのが「品質」だ。

 長野県飯山市の飯山工場における国内生産によって、高品質の製品を素早く納品する「Made in Japan」の仕組みを構築し、品質向上に向けた改善を日々実施している。

 2008年にiiyamaの生産拠点を自社化し、PCの生産機能を集約。国内生産による高い品質の実現とともに最短で翌日、平均で3〜4営業日での出荷体制を構築した。

マウスコンピューター 小松永門 軣秀樹 社長 交代 インテル 長野県飯山市にある飯山事業所。同社の生産/出荷拠点で、毎年夏には「親子パソコン組み立て教室」が開催される

 一方、部品の調達に関しても、同社独自の品質基準を元に取り組んだ。パートナー企業との連携によって、数年かけて共同で改良を行うといった取り組みも進めている。

 さらに同社では、新たに技術説明ページを公開し、製品仕様には掲載していない技術説明や製品寸法図、さらには採用している部材のメーカー名や型番なども明記することで、購入者が安心してマウスコンピューターのPCを購入できるようにしている。

 特に、この5年間は品質改善の効果が大きく、AFR(年間平均故障率)や初期不良率は、大幅に削減しているという。社内の品質改善に対する意識が毎年のように高まり、それに伴って、物作りの品質基準や部品の調達基準も改善され、その繰り返しが品質向上につながるという好循環が生まれていることが理由だ。

 小松氏は、「お客さまの信頼を得るには、『品質』が重要な要素になる。『品質』を認めていただけるからこそ、お客さまと継続的なつながりを持つことができる。だが、品質は、一気に改善するものではなく、地道な取り組みの積み重ねである。30年間以上に渡り、私たちのPCを使っていただけているのは、『品質』に対する評価の積み重ねに尽きる。品質改善への取り組みは終わりがない」とする。

 かつての取材で小松氏は、「驚きがないPCメーカーになる」とコメントしたことがあった。ユーザーを驚かせるようなPCを投入しつ続けてきたマウスコンピューターの社長の発言としては、やや違和感を持ったが、その言葉の真意は別にあった。

 小松氏は、「驚きというのはいいことばかりでなく、悪いことで驚くこともある。むしろ、そちらの方が多いかもしれない。しかし、当社のPCを購入すると、空気や水のように何事もなく、3年間や5年間に渡って利用できるという存在でありたい。何もないことが一番であり、それが、当社が目指すこれからの姿である」と語っていた。品質を重視するモノ作りを進める小松氏らしい発言だといえる。

マウスコンピューター 小松永門 軣秀樹 社長 交代 インテル

 小松氏が実施した改革の中で、重要な取り組みの1つだったのが、2010年に実施したコールセンターの自社運営化だ。

 それまでは、多くのPCメーカーと同様に、外部企業にコールセンター業務を委託していたが、受電率が業務委託先の評価指標になっていたこともあり、受電を優先して解決対応への品質が低下。同社のコールセンターに対する評価が悪化するという事態が発生していた。そこで、コールセンター業務を自社運営へと転換し、受電率よりも応対品質を重視する体制へと移行し、確実に解決することを目指した。

 さらに、24時間365日のサポート体制をいち早く構築したのも大きな特徴だ。

 日中は仕事や学校などで電話できないユーザーも、自宅に帰ってから電話やメール、LINEで問い合わせることができる環境を用意した。深夜にPCの設置業務を行うといった作業担当者にとっても、トラブル発生時にすぐに問い合わせができるというメリットも生んでいる。今後は、オペレーターを支援するAI音声認識システムの導入も進めることになり、より高い応対品質を目指すという。

 現在、沖縄県沖縄市の沖縄コールセンター、鳥取県米子市の米子コールセンターで対応中だ。2023年からは埼玉サービスセンターでも約10人体制でコールセンター機能を併設した他、新たに本格稼働させた広島サービスセンターにもコールセンター機能を持たせることになる。

マウスコンピューター 小松永門 軣秀樹 社長 交代 インテル マウスコンピューターのサポート/修理拠点「広島サービスセンター」が入っている「GLP広島II」の外観

 24時間365日のコールセンターでの対応に加えて、72時間以内での修理完了の実現も同社の特徴の1つであり、これも小松氏が取り組んできた改革だ。

 PCが壊れたり、不具合が発生したりといった際に、業務を止めないためにPCの修理を最短で行い、手元に戻すことがPCメーカーの責務と位置付け、修理体制を大幅に改革した。実際、2015年当時は、修理にかかる時間は平均で167時間にも達していたが、2022年度には平均修理納期で60時間を達成している。同社では引き続き、修理品質を高めながら修理時間の短縮に挑んでいる。

 これまでは、埼玉県春日部市の埼玉サービスセンターで修理を行っていたが、2023年11月からは、西日本エリアを担当する広島サービスセンターを加えた2拠点体制へと拡張。九州や中国、四国の修理納期の短縮にもつながることになる。

 さらに、センドバック修理やピックアップ修理といった通常修理サービスに加えて、持ち込み修理サービス/出張修理サービス/パーツ配送サービスなども実施している。今後は、法人向けオンサイト修理を新たに開始するなど、さらなる体制強化を進める。

 こうしてみると、小松氏の社長としての18年間は、国内生産/国内サポート/国内修理体制を構築し、マウスコンピューターの事業拡大の基盤を作り上げた18年間だったといえる。

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