開発者だからこその世界最軽量へのこだわり――退任した富士通クライアントコンピューティング 齋藤邦彰会長の歩みを振り返る(4/4 ページ)

» 2024年07月01日 15時00分 公開
[大河原克行ITmedia]
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AIアシスタント「ふくまろ」に強いこだわり

 齋藤氏が、もう1つこだわってきたこととして、FCCLの個人向けPCに標準搭載されているAIアシスタント「いつもアシスト ふくまろ」がある。

 この機能は、アプリを起動して話しかけると、アプリ名の由来にもなった「ふくまろ」が回答してくれるというものだ。2018年に登場して以来進化を続けており、2023年11月にはAzure OpenAI Serviceを通じて「ChatGPT 3.5」を活用できるようになった。これにより、ユーザーとのやりとりがより自然になり、幅広い話題にも対応できるようになった。

ふくまろ FCCLの個人向けPC(LIFEBOOK/ESPRIMO)にプリインストールされる「いつもアシスト ふくまろ」

 齋藤氏は、ふくまろに2つの役割を持たせた。

PCの利用促進

 1つはPCそのものの利用を促進することだ。齋藤氏は「PCは何でもできるが、その使い方が変わらないため、特定の用途や一部のアプリしか使われなかったり、場合によっては何もできなかったりというケースもある。PCを利用するときに、画面表示や音声によってアシストしてくれるのが、ふくまろの役目」と語る。より幅広い層にPCの利用を広げるためのツールに位置づけているわけだ。

 2021年からは、ふくまろの機能によって、高齢者を始めとする“デジタルが苦手な人”をサポートするサービス「ふくまろおしえて」を開始した。

 「高齢者にとっても、オンラインが使えるか使えないかで、生活が大きく変わってしまう時代が訪れた。しかし、『PCは難しく、今から覚えるのは無理だ』という声があるのも事実。こうした“難しい”という敷居を、ふくまろによって取り払いたい」と齋藤氏はサービスの狙いを説明する。

ふくまろおしえて 「ふくまろおしえて」は、いつもアシスト ふくまろの機能を活用してPCの使い方をサポートできるようにするサービスだ。教える側(基本的には家族を想定)は、手持ちのPCまたはスマートフォンの「LINE」アプリから教えてもらう側の画面を確認しつつ、操作の手助けを行える

もう1人の家族

 ふくまろのもう1つの役割は「もう1人の家族」という用途だ。齋藤氏は「PCの利用をサポートしたり、新たな機能を簡単に使えるようにしたりといった『機能的価値』だけでなく、ふくまろが持つキャラクター性によって、愛着や癒しによる『情緒的価値』も提供できる」とする。

 実際に使ってみると分かるが、ふくまろのパーソナライズ機能は、順次強化されている。家族を見分けて名前で呼んだり、好みを覚えて会話したりすることができるようになっている。PCをより身近に感じてもらうための仕掛けが用意されている

 齋藤氏は「ふくまろは、これからも進化を続ける。将来的には、より高い専門知識を持ったり、もっと生活に寄り添ったりといったことができるかもしれない」と語る。

 FCCLは「人に寄り添ったコンピューティング社会をリードしていく」ことを経営の柱に据えてきた。それを体現する重要な役割を担うのが、ふくまろなのだ。

 この取り組みは“長期戦”になることが想定される。だが、AIアシスタントである「ふくまろ」の存在は、人に寄り添うために重要だと齋藤氏は捉えている。

ふくまろ ふくまろは、FCCLの理念を体現する上で重要な役割を果たしている

富士通ブランドPCの特徴は「匠」「疾風」

 齋藤氏に「富士通ブランドのPCの特徴は何か?」と聞くと、必ず返ってきた言葉が「匠(たくみ)」と「疾風(はやて)」だった。同氏がパーソナルシステム事業部長だった2005年頃から使い始めた言葉で、かれこれ20年近く使っていることになる。

 「匠」は、匠の技によって、繊細さや日本ならではのクオリティーを実現する技術を指す。「疾風」は、顧客の声に素早く対応し、短いサイクルで先進的な技術を役に立つ機能として実現する取り組みを指す。

 これらは、川崎市に国内開発体制、島根県出雲市に国内生産、そして独自の国内サポート体制を持っているFCCLだからこそ実現できるものだと位置付けている。合弁体制となった“新生FCCL”がスタートした2018年5月のDay 1に、齋藤氏は「人に寄り添ったコンピューティングを実現する」ことを掲げ、「全ての主語に『お客さま』を置き、お客さまのために何ができるのか――それを、従業員一丸となって考え、突き進んでいく会社にしたい」と述べた。

 また、Day 1000を迎えた2021年1月には「世界一、お客さまに優しいコンピューティング会社になりたい」とも語っていた。ここにも一貫したメッセージ性を感じることができる。そして「FCCLの特徴は、期待をされればされるほど、力を発揮する会社である。その姿はこれからも変わらない」とも語る。

 富士通クライアントコンピューティングの社名には、あえて「コンピュータ」という言葉を使っていない。つまり「コンピューティング」としているのには意味があるのだ。

 齋藤氏はかつて、「社名をクライアント『コンピュータ』ではなく、クライアント『コンピューティング』としているのは、単にPCを作り、それを提供するメーカーという立ち位置ではなく、コンピューティングの力によって、お客さまの役に立ち、世の中にイノベーションを引き起こす“起点”となることを目指しているからだ」と語っていた。

 人に寄り添うDNAを持ち続ける企業としての地盤作りと共に、FCCLが「コンピューティング」の世界において、次の成長を遂げるための風土を作り上げたことが、齋藤氏の大きな功績だったといえる。

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