齋藤氏といえば、モノづくりが好きな経営トップという印象が強い。それはまさに、富士通ブランドのPCが常にユニークであったことの裏づけともなる。
同氏が携わったPCの1つが、2000年9月に発表されたモバイルPC「FMV-BIBLO LOOX(ルークス)」だ。A5紙とほぼ同じコンパクトサイズ(幅243×奥行き151mm)で、1kgを下回る約980gの軽量化を実現し、DDIポケット(現在のソフトバンク)のPHSネットワークに対応するモジュール「H" LINK(エッジリンク)」によって、PCを開けばデータ通信がすぐにできるモデルも用意され、Transmeta(トランスメタ)の省電力CPU「Crusoe(クルーソー)」を初めて採用したことでも話題を集めた。
実は、本機のCPU選定を担当したのが齋藤氏である。「今のスマートフォンの使い方と同じように、電車の中でもネットにつながり、作業ができるようにするためには、省電力化が欠かせなかった。どこまで省電力化できるかが、開発チームのテーマ。そこでいち早く、Crusoeの採用に踏み切った」と齋藤氏は語る。
その後、CPUはIntel製に変わったものの、同シリーズは2011年まで進化を続けた。斎藤氏は「富士通のPCにとって、LOOXは特別なブランド。モバイルコンピューティングの世界をリードし続けるために、常に革新的な製品づくりを目指すブランドと位置づけてきた。新製品を投入する度に、従来モデルを超える高い目標を打ち出し、何度も試行錯誤を繰り返し、進化を遂げてきた」と振り返る。
FCCLは2022年3月、富士通ブランドPCの40周年記念モデルとして「FMV LOOX」を復活させた。この復活にも、齋藤氏の強い意思が働いているという。
FMV LOOXは13.3型有機ELディスプレイを採用し、別売の専用キーボードを接続するとノートPCとしても利用できる2in1タイプのWindowsタブレットだ。2022年1月に米ラスベガスで開催された「CES 2022」では、「CES Innovation Awards 2022」を受賞するというデビューを果たし、世界中から注目された。
初代LOOXから、40周年記念モデルのFMV LOOXまで、齋藤氏のこだわりが詰まった製品だといえる。
齋藤氏が「ものづくり好き」だと感じるできるエピソードは、いくつもある。
2009年に行われた「CEATEC JAPAN 2009」のパネルディスカッションでは、同じ席に競合PCメーカーの幹部が並ぶ中、開発コンセプトモデルをいきなり披露してみせた。
このとき公開したのが「Frame-Zero」で、ディスプレイの枠がないPCや携帯電話を組み合わせることで画面を拡大でき、画面サイズ一杯に画像やデータを表示することができるというものだった。家族や友人、会社の同僚が持っているPCや携帯電話を持ち寄れば、画面はいくらでも拡大することが可能で、切り離したときに、それぞれのデバイスにデータが共有され、自分の画面で見ることができる――そういうコンセプトだ。
同氏はFrame-Zeroを「モノとモノのシンクロ、人とモノがシンクロできる未来のデバイス」と位置付けつつ、「社内では、将来のPCの形はどうなるかといったことをさまざまな角度から検討している。時代がやってくるのを待つのではなく、顧客がどんなものを望んでいるのかを先取りして提案をしている」と、富士通のPC事業の基本姿勢を語っていた。
新たなことに挑戦する齋藤氏の姿勢は、FCCLのトップに就任してからも変わらなかった。2016年に富士通の完全子会社としてFCCLがスタートしたのにあわせて、斎藤氏の肝入りでスタートしたのが、新規事業創出プロジェクト「Computing for Tomorrow」だ。
このプロジェクトでは、若手技術者などの自由な発想を元に、「PC」「タブレット」といった既存製品の枠にとらわれない製品やサービスの創出を目指し、年間予算を確保した。また、プロジェクトチームの参加者は担当業務(現業)から半年間離れて“専任”でプロジェクトに従事させるという仕組みまで構築した。
この取り組みから、エッジコンピュータ「Infini-Brain」「ESPRIMO Edge Computing Edition」が生まれた他、電子ペーパー端末「QUADERNO(クアデルノ)」の製品化にも影響を与えた。
Computing for Tomorrowから生まれた「ESPRIMO Edge Computing Edition」は、教育市場への導入を想定して「先生側の模範表示」「生徒用端末のネット接続」「生徒用端末へのデータ配信」の全てを賄えるデバイスとして開発された
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