一方で、Snapdragon X Eliteに関しては、CPUコアの命令セットアーキテクチャが、Arm64アーキテクチャであることも忘れてはならない。動作するOSは「Arm版Windows 11」であり、IntelやAMDのCPU(x64アーキテクチャ)で動作する「(x64版)Windows 11」とはUIは共通だが、中身は全く別のものである。
そのため、アプリの互換性については注意が必要になる。Snapdragon X Elite本来のパフォーマンスが発揮できるのは、Arm64ネイティブアプリに限られる。Arm版Windows 11は、x64(64bit)/x86(32bit)のアプリはエミュレートする機能を持っているのでArmネイティブ以外でも多くのアプリは動作するが、ハードウェアに直接アクセスするようなアプリや、アーキテクチャで起動やインストールを制限するようなアプリは動作しない。
動作しないアプリの代表的なところではアドビのソフトウェア群がある。PhotoshopとLightroom(Classicではない簡易版)は早々にArmネイティブ対応をしたものの、Premiere ProやLightroom Classicといった愛用ユーザーが多くいる定番ソフトの多くはインストールもできない状況だ。Snapdragon X Eliteのパフォーマンスは、クリエイティブでこそ生きると思われるだけにArm対応が待たれる。
実際に使って見ると、動く動かないだけではない、やっかいなこともさまざまある。1つは、アプリがArmネイティブ対応しても、「必ずしも既存のx64版と同じ機能が全て使えるとは限らない」ということだ。
例を挙げると、2022年の日本HPのHP Elite Folioのレビュー当時のZoomは、Armネイティブ対応していたものの、その機能はx64版には遠く及ばないシンプルなものに限られ、背景効果すら利用できない状態だった。既に現在のArmネイティブ版Zoomでは解消されているが、同じことは全てのアプリで起こりうるため、懸念点として頭に入れておきたい。
もう1つは、プログラムの相互運用時の問題で、代表例がIMEだ。例えば、ジャストシステムのATOKが挙げられる。ATOKはArm版Windows 11上でもエミュレーションで動作するが、Armネイティブアプリとの組み合わせでは動作しない。Armネイティブアプリとx64アプリ(エミュレーション)、どちらもArm版Windows 11で動作するものの、相互に連携して運用することはできないというわけだ。
これはIMEに限らず、アプリのプラグインなどでも同様の問題が起きることであり、開発が進まない理由の1つになっている。Microsoftでは、この問題の解決策として、x64アプリと相互運用可能な「Arm64EC」というバイナリインタフェースを用意し、Microsoft OfficeをこのArm64ECベースで構築している。
MicrosoftがArm64ECを実装したのは、Office用のプラグインを動作させるためであり、IMEのためというわけではなさそうだが、結果的には、これによってWordやExcel、PowerPoint上では、ATOKを使っての入力が可能になっている。しかし、Edgeやフォト、ペイントなど、Arm64ネイティブのOS標準アプリではATOKは使えないままだ。Arm64ECの利用がもっと広がれば解決に近づくのだが、Microsoft Office以外ではArm64ECの実装例は確認できていない。
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