―― SHARP Tech-Day'24では、50以上の展示のうち、CE-LLMを始めとするAI関連の展示が半数以上を占めます。シャープがAIに対する取り組みを積極化していることを感じます。
種谷 当社の経営トップを始め、多くの社員がAIはユーザーに届ける価値を変えることができる技術であり、そこにチャンスがあると捉えています。当社では、新たに「イノベーションアクセラレートプロジェクト(通称:I-Pro)」を、2024年5月からスタートしました。これは、1977年からスタートし、数多くの成果を上げてきた「緊急プロジェクト(通称・緊プロ)」を進化させたものであり、CEO主管の全社プロジェクトとなっています。
各ビジネスグループから開発に適した人材を集めて総力を結集し、開発スピードを2倍に高めることを合言葉に、新規事業の早期創出を目指しています。現在、EVエコシステムに取り組む「I-001プロジェクトチーム」と、生成AIをテーマに活動している「I-002プロジェクトチーム」があります。
いずれもキーになるメンバーが集まった組織であり、議論が促進され、全社にも波及しやすい体制となっています。I-Proの1つとして生成AIに取り組んでいることからも、当社がこの分野を重視しているかが分かると思います。私は、I-Proは「シャープらしさ」を取り戻すには必要不可欠な取り組みだと思っています。
―― それはなぜですか。
種谷 私は、「シャープらしさ」は脈々と残っていると思っています。SHARP Tech-Day'24に50以上ものNext Innovationを展示できるということは、まさに「シャープらしさ」が根づいていることの証です。その点は全く心配していません。
ただ、欠けていたのはビジネスグループ主体の縦割りの開発体制によって、新領域に対してアグレッシブさがなかったという点です。縦割り組織では、イノベーションが生まれにくいのも事実です。組織横断で、CEO主管のもとに推進するI-Proは、「シャープらしさ」を取り戻すことにつながると考えています。
―― シャープの沖津雅浩社長兼CEOは、「シャープらしさが戻るまでには数年かかる」と言っています。時間がかかりますか。
種谷 CEOの立場で見れば、利益を得て初めて「シャープらしさが戻った」といえます。ただし、CTOである私の立場では、今「シャープらしい」商品や技術を出さないと、3年後には利益が出ません。少しでも早く「シャープらしい」商品を出すことが私の役割です。
―― シャープは、2024年度からスタートした中期経営方針の中で、デバイスのアセットライト化を打ち出しています。これまではデバイス(技術)とブランド(商品)がスパイラルで相乗効果を発揮し、シャープの成長を支えてきました。これが崩れることになるのではありませんか。
種谷 もともと当社のデバイスは、シャープの商品の特徴を出すために開発/生産を行ってきました。基本は内需向けです。しかし、途中からそのバランスが崩れ、他社のためのデバイスを作るところに力を注ぐようになりました。デバイスのアセットライト化は、それをもとに戻そうとしているものであり、決して、完全にデバイスをやめるわけではありません。
開発は継続し、当社のブランド商品を特徴づけることができるのであれば、それはデバイスに埋め込んだ方がいいと判断するものもあるでしょう。デバイス開発は、当社のブランド事業を大きくするというミッションの元に投資することになり、他社の事業を特徴づけするデバイスに投資することはしません。
かつてはスパイラル戦略という言い方をしていましたが、結果としてデバイスを売るための投資になっていたという反省点はあるにしても、その考え方は残っています。つまり、スパイラル戦略の形も変化することになります。
今後は、CE-LLMとブランド商品のスパイラルもあるでしょう。また、CE-LLMをLSIに埋め込んだ方がいいと判断すれば、デバイスのスパイラルが生まれるかもしれません。
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