アドビは2月12日、PDFドキュメントアプリ「Adobe Acrobat」の日本語版において「Acrobat AIアシスタント」のサービスを開始した。長文PDFファイルの自動要約や複数文書の横断検索、契約書の差分チェックなど、ビジネス文書の取り扱いを効率化する機能で、有償提供となる。料金は以下の通りで、Acrobat本体の有料サブスクリプションとは別契約となる。
(※1)学生版は月額220円(購入時に身分確認が必要)
(※2)1年以内に解約すると解約金が発生する
Acrobat AIアシスタントは、デスクトップ版/モバイル版の「Acrobat Reader」の他、デスクトップ版の「Acrobat Standard」「Acrobat Pro」、Webブラウザを介して利用する「Acrobat Web」、Google Chrome/Microsoft Edge向けの「ブラウザ拡張機能」でも利用できる。従来は欧米の6言語(英語/ドイツ語/スペイン語/フランス語/イタリア語/ポルトガル語)をサポートしていたが、今回のアップデートによって日本語もサポート言語に加わる。
ただし先述の通り、本機能は有償だ。有償のAcrobat Standard/Pro(※3)を契約している場合でも、本機能の料金は別途かかるので注意したい。初回申し込み時のみ無料体験期間が設けられているので、その間に継続利用するかどうか判断したい。
(※3)「Adobe Creative Cloud」のコンプリートプランに内包されているAcrobat Proを含む
本機能の特徴は、PDFを始めとするさまざまなドキュメントファイルをAIが横断的に理解することにある。世界には推定3兆個のPDFドキュメントが存在するとされ、膨大なデジタル文書を効率よく扱うためには、単なるキーワード検索を越えた「意味の理解」が不可欠だ。そうした文書理解をAIに任せることで、日々の情報探しにかかるコストを削減できるとアドビは説明する。
PDFドキュメント以外に扱えるファイルは、Microsoft Officeで使われている「Wordドキュメント(.docx)」や「PowerPointプレゼンテーション(.pptx)」、テキストファイル(.txt)など、ビジネスで使われる主要な形式をカバーしている。ファイルごとに分散された情報をまとめて要約したり、同じファイルの複数バージョン間での変更点を検出したりする際にも利用可能だ。
特徴的なのは「引用元を明示」する仕組みだ。AIが抽出した回答や要約に対し、どの文書のどの段落を参照したかをリンク付きで表示するため、「誤情報」を見落とすことを防ぎやすい。
日本語版のAcrobat AIアシスタントは、日本国内に設置されたサーバで動作するクラウドベースの生成AIを活用する。ユーザーが読み込んだ文書はAIモデルの学習に再利用をしない設計とすることで、企業などが機密書類を扱う場合でも安心性が高いとアドビは説明している。
具体的な利用シーンとしては、「契約書の改訂作業」が挙げられる。旧版と新版の両方のPDFファイルをアップロードしてプロンプトで「差分を教えてほしい」と依頼するだけで、差分(修正箇所)が一覧表示される。「契約期間の延長」「報酬金額の変更」といった、紙ベースで確認すると発生しがちなヒューマンエラーを減らし、チェックにかかる時間も短縮できる。
AIアシスタントは「技術文書の解析」にも有用だ。多数のバージョンが存在する製品マニュアルやAPI仕様書の中から「セキュリティ設定に関する記述を探してほしい」と指示すると、ファイルを横断して関連する部分をまとめて、提示してくれる。引用元が明示されるので、どの文書のどこに書かれているかすぐに確認できる。
Acrobat AIアシスタントは、Androidスマートフォン/iPhone(iOS)向けのモバイルアプリでも利用できる。
例えば、移動が多い営業コンサルタントが「外出先で詳細なレポートを確認する必要が生じた」というシーンでも、スマホだけで長文資料を要約し、ポイントを把握可能だ。「このビジネス提案書の最重要ポイントを2行で要約して」と話しかければ、会議までのすき間時間に概要をつかめる。
Acrobat AIアシスタントでは、ドキュメントの翻訳も可能だ。例えば会議後の議事録を開き、チャットボックスに「この議事録のポイントを英語で箇条書きにして書き出して」とプロンプトで指示をすると、その通りに書き出してくれるので、海外拠点への共有メールも即座に作成できるという。
また、逆に日本語以外の言語で書かれたドキュメントを日本語でまとめることもできるため、多国籍チームが参画するプロジェクトでも効率的に情報共有が可能だ。
複数の議事録やプレゼン資料をアップロードし、「過去3回の会議で重要な決定があった箇所をまとめて」とプロンプトで指示すると、予算承認やスケジュール変更などを一括で抜き出すこともできる。管理職やプロジェクトリーダーが短時間で意思決定の履歴を振り返りやすくなる。
Acrobat AIアシスタントで扱えるファイルは、1つ当たり100MB未満かつ600ページ以内という制約がある。これを超えるファイルを解析したい場合は、いくつかのファイルに分割してアップロードするか、不要なページを削除するなどの下準備が必要だ。
また、先述の通り本サービスはクラウドベースで動作するため、オフライン環境では利用できない。常時インターネット接続が必須だ。企業や団体で厳格なセキュリティポリシーを採用している場合は、社内VPNやプロキシの設定、外部サービス利用時のポリシーなどを事前に確認しておくことが望ましい。
アドビは今後、Acrobat AIアシスタントの機能拡張を段階的に進めていく方針だ。現状検討されている機能拡張としては、「Adobe Firefly」や「Adobe Express」との連携で 文書のトーンやレイアウトを自動提案したり、複数人で書き込んだコメントを集約して改善案を提示したりといったものがある。ドキュメントの生成/編集の自動化にまで領域を広げる可能性もあるそうだ。
また、「文章のレビュー作業の効率化」も大きなテーマとされている。複数人がPDFファイル上に書き込んだコメントをAIが一括で集約し、編集案や改善策を提案するような機能を考えているとおいう。
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