コンテンツに著作権情報を埋め込む仕組みとしては、従来から「デジタル透かし」があった。「不正コピーの防止」「出所を示す」といった役割はコンテンツクレデンシャルと共通するが、その仕組みや情報の扱い方に違いがある。
一般的な「デジタル透かし」には、視覚的に確認できる「可視透かし」と、目には見えない「不可視透かし」がある。どちらもコンテンツ自体に情報を埋め込むため、コンテンツの改変や劣化によって情報が失われたり、抽出が困難になったりすることがある。
それに対してコンテンツクレデンシャルは、コンテンツに「メタデータ」として付与される情報となっており、そのデータも改変が難しいセキュアな形式となっている。
メタデータには単なる「著作権/権利者」「改変/編集者」の情報だけでなく、「携わった人の検証された身元」「生成AIのトレーニング利用可否」といったリッチかつ構造化された情報を含めることも可能だ。誰もが使える/入手できるアプリや拡張機能を通して情報を簡単に表示/検証できることも大きな特徴といえる。
コンテンツクレデンシャルは、単にコンテンツを保護するだけでなく、デジタル作品が生まれる経緯や履歴、その真性を証明することに重点を置いている。こうしたコンテンツの来歴管理では、「編集による改変」の履歴もサムネイルで一覧できる。このような情報/履歴はクラウド上に登録されるが、情報の保守にかかる費用は先述のCAIが予算を拠出している。
AIに関する機能がアップデートをする度に、アドビは「AIは人間の創造性を置き換えるのではなく、支援するツールだ」と繰り返し訴求している。しかし、画像生成を始めとする生成AIの出力は、そう“簡単”なものではない。仕組み上、単一の情報を元に生成されているわけではなく、その出自を明確にすることが難しいからだ。
生成AI技術が常識となる中で、クリエイター向けアプリ/ツールの開発者でもあるアドビは、その活用や強化を進めるのと並行してクリエイターの権利の尊重と保護、そして責任ある活用や強化の推進を行う使命と責務を負っている。クリエイター産業無くして、アドビは存在し得ない。
先述したAdobe Content Authenticityは、その使命と責務を果たすためのツールであり、クリエイターの権利を守るために以下の工夫が行われている。
クリエイターは、Adobe Content Authenticityを利用することで自身の作品にC2PAに準拠するコンテンツクレデンシャルを適用できる。
このクレデンシャルには、LinkedInの「Verified on LinkedIn」の他、「Adobe Behance」「Instagram」「X(旧Twitter)」など自身のSNSアカウントへのリンクを埋め込むことで、著作権の帰属者に関する情報を埋め込める。
これにより、作品に関心を持つ人々から正当な対価を得やすくなる。
Webサイトでは、いわゆる「クローラー」が取得できる情報を制御できるタグ(Robotsメタタグ)が用意されている。それと同じように、Adobe Content Authenticityでは生成AIの学習利用の可否の意思表示を行うフラグも付与できる。「自分の作品をトレーニングに使ってほしくない」という場合は、利用不可のフラグを付けておけば学習に利用できなくなる。
画像の学習はAIモデルの製作者の良識に委ねられるべきものではある。それでも、利用を断るための“正当な手段”を用意することは重要だ。
現時点では、このフラグを全ての生成AIモデルが認識する(導入している)わけではないが、この仕組みは「生成AIに対するオプトアウトのメカニズム」に向けた第一歩といえる。
アドビでは、Adobe Fireflyが生成する画像にコンテンツクレデンシャルを自動的に付与している。Fireflyは先般のアップデートで他の生成AIモデルを利用できるようになったが、クレデンシャルには「どの生成AIモデルを使って、どのように作られたのか」という情報も含まれる。クレデンシャルを通して「クリエイターが描いた(編集した)画像」なのか「生成AIが作った画像なのか」という判断も可能となる。
なお、手描きクリエイティブツールの「Adobe Fresco」では、これとは逆にコンテンツクレデンシャルに「生成AIなしで作成」フラグを付与できる。これにより、アートワークが人の手で作成されたことを示すことができる。
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