このように、会場外での盛り上がりが想像以上だったジェンスン・フアンCEOの基調講演だが、コンシューマー(個人)になじみ深い内容としては、5月20日発売予定の「GeForce RTX 5060」搭載グラフィックスカード(ASUSTeK Computer製)と、「GeForce RTX 5060 Laptop GPU」を搭載するノートPC(MSI製)を手に取り紹介したシーンのみ。大半はエンタープライズ(研究機関を含む法人向け)製品の内容で、とりわけ台湾を拠点とするパートナー企業への謝意が盛り込まれていた。
コンシューマー向けの内容は、発売が近いGeForce RTX 5060/5060 Laptop GPUに関する内容のみだった。「10ピクセルのうち1ピクセルだけレンダリングすれば、残りの(最大)9ピクセルをAIで描ける」と、NVIDIA製GPUの優れたAI処理性能によってゲームグラフィックスの超解像処理品質が向上したことをアピールしたNVIDIAはいわゆる「ファブレスメーカー」であり、自社で設計した半導体などの生産は受託生産を専門とする「ファウンドリー」と呼ばれる企業(工場)に委ねている。最近のGPUチップであればTSMC、グラフィックスカード(Founders Edition:日本未発売)であればFoxconnといずれも台湾企業が生産を担う。
それだけでなく、グラフィックスカードを始めとする同社のGPU/SoCを搭載する製品を設計/製造/販売する企業の多くも台湾に所在する。台湾との“付き合い”は、30年を超えるという。フアンCEOはパートナーである台湾企業に謝意を示すと共に、これからもコンピュータエコシステムの中心を担う企業として共に新しい市場を開拓し、成長したいと語る。
現在のNVIDIAがGPUにおいて強いシェアを持つようになったのは、「CUDA(Compute Unified Device Architecture)」と呼ばれる並列演算技術を導入したことが一因だ。2D/3Dグラフィックスに関する演算や描画だけでなく、汎用(はんよう)的な演算にも使おうという発想はとても画期的だった。
CUDAは2006年に登場した「GeForce 8シリーズ」で初導入されて以来、GPUアーキテクチャと歩調を合わせて進化を続けてきた。そのエコシステムは2019年に登場したソフトウェアライブラリー「CUDA-X」によってさらに広がりを見せている。
フアンCEOはCUDAやCUDA-Xがもたらす強みを解説しつつ、さまざまな業界において応用が進み、社会のいろいろな側面に浸透していることをアピールした。
GPUを多数搭載する「GPUサーバ」を使って携帯電話(モバイルネットワーク)の基地局の機能を構築するということは、ひと昔前までは考えられなかった。日本では、この取り組みをソフトバンク/京セラ/富士通とそれぞれパートナーシップを組んで進めている昨今、従来のコンピュータ(CPUやGPU)では時間を要する演算を、量子力学の原理を使って高速に行う「量子コンピューティング」という概念が提唱されている。
この世界において、NVIDIAも「CUDA-Q」という取り組みを進めている(Qは量子コンピューティングを意味する)。これは量子コンピューティングに特化した演算器である「QPU(Quantum Processing Unit)」では排除しきれない演算の“誤り”を、CUDA対応GPUを使って訂正して精度を高めようという取り組みで、多くの企業や団体と協力して研究が進められている。
「CUDA-Q」は、QPUに「NVIDIA GB200シリーズ」のようなCUDA対応GPUを連結することでQPUで発生しうる演算エラーを訂正し、量子コンピューティングのメリットを押し広げようという取り組みだ。量子コンピューティング(QPU)と、古典的なコンピューティング(GPUやGPU)を協調させるため「ハイブリッドコンピューティング」とも呼ばれるNVIDIAが、GPUを使ったAI演算について取り組み始めたのは約12年前だ。ここ数年はAIのパフォーマンスが向上し、フアンCEOの言葉を借りれば「ほぼ全てのあらゆるものを、あらゆるものに変換できるように」なり、「普遍的な関数近似器や翻訳機」を手に入れた。
しかし、現状の生成AIは大量の学習データを元に作られたものであり、「知性」と呼ぶにはまだ足りない部分もある。それは主に「理由付け」だったり、「未知の問題を解決する能力」だったり、「問題を段階的に切り分けていく能力」だったりする。
その観点でNVIDIAが注目しているのが「エージェントAI(Argentic AI)」だ。エージェントAIは現状の生成AIでは足りない「事象を理解し、思考(検討)し、行動する」というプロセスを踏むことが特徴……なのだが、これを実現するには現状の(1つのプロンプトに対して1つの出力を行う)ワンショットAIの100〜1000倍の演算能力が求められるという。
フアンCEOは、「デジタル時代のロボット」たるエージェントAIが今後数年間のAIにおける重要な課題になるだろうとする。
現在、生成AIは「エージェントAI」を志向するような研究が進められている。しかし、フアンCEOの言う通り人間の「知性」を模すとなるとワンショットで済んでいる現状の生成AIと比べても膨大な演算が必要となるフアンCEOは、エージェントAIの次に「物理的なAI(Physical AI)」という“波”が来ると語る。物理的というとちょっと分かりづらいが、これは「現実世界のことを理解するAI」のことだという。
現実世界で発生する事象の結果には「慣性の法則」「摩擦(係数)」など、さまざまな物理的法則が絡む。これを推論できるAIが生まれれば、ロボティクスに対して大きな革命をもたらすことができると語る。
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