1つ目のスペシャルトークセッションタイトルは「AIによってプログラミングスタイルはどう変わるのか?」というものだ。
Webメディア記者/AIクリエイターの松尾公也氏、LLM無職 ナル先生@GOROman氏(以下、ナル先生)、AI/ストラテジースペシャリストの清水亮氏を迎えて行われたこのセッションでは、「人間がやるべき最小限の仕事」「会話UIとキーボードの共存での適材適所」「HHKBが思考の楽器」「XR/空間UI時代の入力」といったテーマでトークが繰り広げられた。
小山氏が「AI時代、最後に残る人間がすべきことはなにか」と問いかけると、清水氏は「感動すること」と答えた。それには、場所、経験、人をリアルに体験することにより得るものだけでなく、AIが出してきたものに対しても同様で、「感受性、人間性を磨くことが仕事として残る」と解説した。
ナル先生は、「AIが介入することで、人のレイヤーは上がる」と言う。これは、今までコーディングしていた人が、AIに指示を出す、作られたものをレビューするということを意味する。
松尾氏は「好奇心」と答えた。というのも、自分が興味を示したものをAIに投げることで、AIがそれを実現する具体的な方法をいくつか提案してくるから、と説明する。そして「その中から何を選ぶかという判断も今は人間がしているが、それもAIが担うようになるかもしれない」と付け加えた。
小山氏が「判断するには価値観が定まっていないと難しい。若いうちにAIに頼るのは難しいのでは?」と質問を投げかけると、清水氏は「自分が同じ年ごろだったときと感動ポイントが異なるので、彼らの価値観が何をもって定まっているといえるのか、定まるように導けるのかが分からない。われわれおじさんが、最後まで人間力を磨くことを心掛けるしかない」と回答した。
小山氏が「(感動ポイントの差異は)生まれた環境が違うから?」と聞くと、清水氏は「彼らは生まれたときからiPhoneがある。僕らの頃は、そもそもキーボード自体が上等なものだったのに、今の子たちからすると『キーボードだから何?』みたいな感覚。そういう子たちをどうやってキーボードへ回帰させるか……いや、回帰させなくてもいいんだけど」と、いつものように「キーボード不要説」をさく裂していた。
そこで次のテーマ「会話UIとキーボードの共存 どの仕事で何が速い?」へ移行した。
ナル先生は、自身のAIグラス体験から「AIに音声で指示するUIは便利だが、音声は誤差が多いので、キーボードの方が速い」と力説する。
清水氏は「細かい調整を音声で指示した方が速い」と主張する。「コードそのものを書くのは難しいが、AIが受け取れるようになった現在、こういうプログラムを作ってほしいと音声で指示する方が速い」と付け加えた。
小山氏が「それでは、キーボード要らないってことになっちゃいますね」とツッコミ、ナル先生が「だからさっき気を使ってキーボードの方が速いっていう話の流れにしたのに」と苦笑いすると、清水氏は「いや、気を使わなくちゃいけないような場に、僕たちを呼ばないでしょう」と会場の笑いを誘っていた。
その上で、「とはいえ、同じ言葉をつむぐにしても、しゃべりたくない“黙考”したい場合もある。キーボードを使って入力したものは、触覚体験を通じて言葉を書き、出てきた言葉を視覚的体験で受信する。キーボードで言葉を紡ぐという行為は、マルチモーダルでモードが異なる」とフォローする。
「以前はAIにブログを書かせていたこともあったが、書くことが好きなので、AIの入り込む余地がないようにポメラを使ってブログを書くこともある。AIの思考が入ってくると自分を失うような気がする。だからキーボードは必要なのだ」(清水氏)
松尾氏は、最近テレビ局で引き受けている仕事「Text to Speech」において、「音声で音声の修正をするのは難しく、アウトプットが音声ならインプットはテキストというのがしっくり来る。そんなときに大活躍するのが、“A”の隣に“Control”キーのあるキーボードだ」と、会話UIが発達してもキーボードが必要になる場面について説明していた。
HHKBを“思考の楽器”にするために必要な要素として、清水氏は「ノブやフェーダー」の追加を提案した。「AIに作ってもらった画像の髪の色や服の色を変えたい場合、わざわざプロンプトを書くのが煩わしい。それならノブやフェーダー(MIDIキーボードのボリュームツマミ)で色合いを変えられた方が思考の妨げにならない」というのが理由だ。
「XR/空間UIで入力はどう変わるのか、HHKBの役割は?」というテーマでは、装着中のMeta筋電位センサバンド「EMGリストバンド」を例に挙げて、「ジェスチャー操作で行えるようになるのではないか」と期待を込めて語った。
試したことのある清水氏は「物理的なフォースフィードバックが欲しい。ここから先は境界外だからボワンと押し戻す感覚があるとか、これ以上回せないようにビリっとするとか」と提案していた。
最終テーマ「明日から実務で試すなら、登壇者各自の“AIの型”は?」は、普段、登壇者たちがどのようにAIを便利に使っているかを問うものだ。
興味深かったのはナル先生の使い方だ。「“さわやか待ち時間アプリ”をManusで作った」と会場の参加者に見せる。「さわやか」は、静岡県を中心に展開されているハンバーグレストランで、人気が高く、2時間待ち、3時間待ちはざらである。
ナル先生のさわやか待ち時間アプリを使えば、最も近いさわやかの現時点での待ち時間だけでなく、過去にどの曜日のどの時間帯に混んでいたかといったヒートマップまで閲覧できる。
「AIがあれば自分専用のアプリを作れるし、既存の使いにくいアプリのUIを変えることも簡単にできる。生成AIではなく、生成UI時代になって、各自がパーソナライズされたUIを使える時代が来るのではないかなと考えている」(ナル先生)
松尾氏が披露したのは、「Atlasブラウザの利用」だ。ブラウザ内に数十ものタブを立ち上げている状態で、AIに質問するために別のタブへ飛んでしまうと、さっきまで閲覧していたタブを探すのが大変である。しかしAtlasなら、今見ているタブ内でAIを呼び出して、そのタブ内にカラムのように表示させられるので業務効率化が図れるというわけだ。
最後の一言を促された松尾氏は「ノンプログラマだけど楽しい時間を過ごせた」と控えめに語っていた。
ナル先生が「清水さんのフォースフィードバックが頭に残っている。HHKBにその仕組みを作れれば面白いだろうなと感じた」と語ると清水氏が割って入り「画面に入力されているものを読み込んで“いや、そこにこれを入力するのはやばいよね?”ということでEnterキーをめちゃくちゃ固くして押しづらくするとか」と提案していた。
清水氏は、「世の中からキーボードが消えていくと思うし、キーボードを使う人もいなくなると思う。だけど僕はHHKBがある限り一生使い続けるので、なくならないようにがんばってもらいたい」と締めくくっていた。
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