“士郎正宗マウス”が24年ぶり復刻! 有機的な義体フォルムと令和仕様の融合を試す(3/3 ページ)

» 2026年06月19日 16時10分 公開
[瓜生聖ITmedia]
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“古くない”復刻版

 士郎正宗氏は復刻にあたってのインタビューで、「俗にいう『用と美』や『クラフトとデザイン』の比重/割合」という言葉を使っている。用と美の統合ではなく、どちらにどれだけ配分するかというバランスの問題として捉えている点は非常に興味深い。

 それはフィクションの世界での創作と、現実の道具としてのプロダクト設計の綱引きを意味しているのかもしれない。そうした観点で考えると、わずか数mmの差がフィーリングに大きく影響するマンマシンインタフェース、その最たるものであるマウスが対象となっていることはかなり挑戦的な企画だといえる。

photo 復刻にあたっての士郎正宗氏のインタビュー

 復刻版とは通常、懐古趣味と表裏一体だ。「あの名機をもう一度」という文脈で成立し、過去を知らない人には「伝説を体験する機会」として提供される。それは主にそのデザインが廃れてしまい、途絶えてしまったことも意味している。

 その一方で、ThinkPadのように世代を超えてデザインを変えない製品もある。それはある種のコモディティ化でもあり、最適化/進化の結果でもある。

 だが、このマウスはどちらでもない。マウスの系譜の中で大勢に影響を与えたわけでも、懐古の対象になるほど一時代を築いたわけでもない。

 デザインに主眼が置かれている以上、他との違いこそが存在意義であり、必然的にそのうち表舞台から消えていく運命のプロダクトとして生まれたはずだ。それなのに、なぜ24年が経過して復刻版が登場したのだろうか。

 その答えの1つは、このデザインが「その時代の流行」ではなく、もっと根の深いところから生まれているからだろう。

 ブレードランナー(1982年)、大友克洋氏の「AKIRA」(1982年〜)、士郎正宗氏の「攻殻機動隊」(1989年〜)――これらが体現したデザイン言語は、有機体と機械が溶け合う世界の手触りだった。

 有機的な曲面と硬質なパーツの共存、高密度な描き込み、アジア的/日本的なものとテクノロジーの同居、そしてそれらが描いた「近未来」の設定年を、現実は既に追い越した。AKIRAの舞台は2019年だった。ブレードランナーも2019年のロサンゼルスを描いた。攻殻機動隊の設立は2029年4月のことだ。

 1万2800円という価格は、昨今のマウスとしてはハイエンド寄りのミドルレンジであり、実際、基本スペックを見てもハイグレードオフィス仕様といったところだ。そのためにはBluetooth対応のマルチペアリングや進む/戻るボタン、静音仕様などは外せないスペックだろう。

 逆に特筆すべき性能/機能はない。M-SHIROW1シリーズを懐古趣味に押し込んでしまわないために必要なスペックを最小限追加することで、復刻版ながらも古くないデザインマウスとして成立しているように思う。

 有名なせりふの引用や新色など、氏の世界の一部である攻殻機動隊をにおわせてはいるが、そこには一線が引かれており、あくまでも「士郎正宗デザイン」という製品として成り立っている。このことはくしくも、先日レビューしたRazerのEVANGELION エヴァ2号機コレクションとは対となるアプローチだ。

→・エヴァ30周年に贈る“Razer×EVA-02コレクション” キーボード、マウス──ファン必見の逸品4モデルを使ってみた

 RAZERの方はベースモデルあってのコラボ企画であるのに対し、こちらはデザインからの企画なので同じ土俵で語るべきではない。だが、その「世界」を表現するデザイン、特定のモデルの再現ではなく、世界の創造主による地続きのモデルだからこそ、われわれは「企業のネットが星を覆い、電子や光が駆け巡っても国家や民族が消えてなくなるほど情報化されていない」時代を、その中から実感できるのではないだろうか。

 攻殻機動隊の舞台である2029年まで、あと3年を切った。2002年に生まれたこのデザインが、その年を目前にして復刻されたことには、意味があるのかもしれない。24年という時間は、このデザインが時代に依存していなかったことの、何よりの証明だろう。

 エレコムの公式Xアカウントによると、M.A.P.P.のもう1つのモデル、カトキハジメモデルも復刻に向けて動いているようだ。24年前、同じタイミングで発売された両モデルが、今回、異なるタイミングでの復刻となる理由は不明だが、そちらも令和仕様での復刻となるはずだ。無線対応、進む/戻るボタンがどのように実装されるのか、楽しみに待ちたい。

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