中小企業のモバイル導入、決め手は“経営課題をモバイルに結びつけられるか”――COMPASS編集長の石原氏ワイヤレスジャパン2009

» 2009年07月23日 11時29分 公開
[後藤祥子,ITmedia]

 「自分たちの事業にモバイルを使えるのではないか、と期待はしているが、“利益が増えるか”“コストを効率化できるか”という答えを見いだせず、躊躇している」――。ワイヤレスジャパンで講演を行ったCOMPASS編集長の石原由美子氏は、中小企業のモバイル導入における課題を、こう説明した。

 大企業を中心に普及し始めている法人のモバイル利用だが、「中小企業の現場にどのくらい浸透しているか、現場の人がどうとらえているかは、なかなか見えてこなかった」と石原氏は振り返る。そこで、中小企業向けIT入門マガジン、COMPASSの2008年夏号で「携帯電話を見逃すな!」という特集を組んだところ、“商店街を盛り上げるためにモバイルを活用したいので、勉強会を開催したい”という問い合わせや、“時代はここまで来ているのか”“うちも何とかしなければ”といった声が寄せられるなど、大きな反響があったという。

 「“ITは難しい、お金がかかる”といった印象を持っている企業でも、モバイルについては“何とかなるのではないか、自分たちでも使えるのではないか”と、期待されていることも見えてきた」(石原氏)

 中小企業の中でも、進んでいる企業はモバイルに着目し、会社にとって何がいいかをまじめに考えて取り組んでいると石原氏。例えば、全国展開を目指す沖縄県のある飲食チェーン店の社長は、決済業務などが立て込む月末に出張できない状況を改善するために、“社長の合図で印鑑を押せる”機械を開発し、社長室に設置したという。

 “経営者が会社に縛られているのでは、会社は大きくならない。どこにいても会社の情報を扱えるようにする必要がある”という社長の考えから、携帯電話の活用を前提としたシステムを開発。社員が決済案件を社長の携帯電話にメールで送ると、社長がその案件を確認し、承認した場合に社長室の印鑑が自動で押されるシステムを導入した。

 「中小企業のモバイル導入に関する取材を進める中で、会社の問題解決や、やりたいことの実現に携帯電話が役立っていることが、実感として分かってきた」(石原氏)

 ただ、モバイルの導入に意欲的な企業がある一方、大多数の企業はモバイルを使うことの価値を見いだせず、導入をためらっていることも事実だと石原氏は指摘。“モバイルの導入で、会社のどこがどれくらい効率的になるのか、利益がどれくらい増えるのか”といった“携帯を使う必然性”が見えてこないと、企業はなかなか導入に踏み切れないというわけだ。

 また、これだけケータイが高機能化しても、“IT化=PCではないか”という先入観から、モバイルまで視野に入っていない企業もあるという。

 「携帯の活用がICTに含まれることや、携帯を使う必然性はどこにあるかということを、分かりやすく説明する必要がある」(石原氏)

 モバイル導入の必然性を探るヒントになるとして石原氏が挙げたのが、携帯電話を内線として使える仕組みを導入した、兵庫県のある企業の事例だ。

 この企業が、かなりの工事や初期投資が必要であるにもかかわらず内線ソリューションを導入したのは「事務職社員の生産性を上げ、幅広い仕事をしてもらいたい」という社長の考えがあったからだという。事務職の社員が社員からの外線の取り次ぎに時間をとられ、新たな仕事をする時間がとれなかったことから、固定電話を携帯電話に変更。携帯電話を内線電話として使えるようにして、社員同士の通話については取り次ぎを不要にした。

 このように、経営課題と携帯電話のテクノロジーをうまく結びつけられた企業は、導入効果が結果としてきちんと現れると石原氏は説明する。


 大企業を中心とした法人営業は浸透しており、普及も進んでいることから、今後は中小企業のモバイル導入に向けたアプローチが進むと予想される。気をつけなければならないのは、情報システム部があり、話が通りやすい大企業に提案するのと、専任の担当者がいないことも多く、経営面とテクノロジーの結びつきがよく分からないケースもある中小企業に提案するのとでは、方法が異なる点だと石原氏は指摘する。

 「実際、(中小企業に)どんな情報が必要かを考えると、事例が大事だと思う。がんばっている先進的な企業から学べるところは多く、どんな企業がどんなふうに使っているかを発掘し、公開することが重要になる」(石原氏)

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