iPad導入に1年ほど先立つ2010年後半、同社は大手ホスティングサービスを利用していたメールサーバをGoogle Appsに移行している。当時はまだ、iPadによるモバイル営業を始めていない状況なのに、なぜクラウド化に踏み切ったのか。
「Google Appsに切り替えたのはズバリ、コスト削減です。現在、700人強いる全社員分のアカウントをGoogle Appsに移行することで、年間数千万円のコスト削減ができました。当社は自社開発のグループウェアを使っていて、スケジュール管理や社員間の情報共有など、あらゆる情報を集約して管理しています。そのため、現在使っているのはGmailのみですが、今後はGoogleドキュメントのスプレッドシート共同編集機能やビデオ会議などの使用を検討していきたいと考えています」(才賀氏)
前述のとおり、iPadからはVPNを使ってGmailアプリでメールを利用するが、社内PCではGoogle Apps移行以前からメーラーソフトとして利用していた「Becky! Internet Mail」(リムアーツ提供)をクライアントソフトとし、GmailからPOP3経由でBecky!へメール転送。受信メールはすべてPCのローカルハードディスクにダウンロードする運用としている。
「Gmailに切り替えたとはいっても、PCを使っている社員は従来どおりのメーラーを使い続けているので、移行時の混乱はありませんでした。セキュリティの観点から、自宅など社外ネットワークからのPCによるメール利用は制限しています」(才賀氏)
同社がいま注目している業務改善手法は、メディアでもたびたび話題に取り上げられているBYOD(Bring Your Own Device:個人所有デバイスを業務利用すること)である。
「社内にBYODを希望する声があったのでアンケートを実施したところ、すでに60%の社員が個人携帯端末としてiPhoneを利用中であることが判明しました。そのため、iPadを配付していない営業職以外の社員も、個人携帯端末からメールを利用できるようにすれば、通勤時間にメールを確認できることから、出社直後の仕事の立ち上がりスピードが大きく違ってくるであろうと考えました」と才賀氏はBYODの導入背景を語る。一部社員によるトライアルを実施したところ、BYODによる業務改善効果は一人当たり35〜40分/日だったという。
気になるBYODのセキュリティ対策だが、ウイルス感染のリスクが高いとされているAndroid端末は認めず、iPhoneだけを対象とし、さらに個人所有物であるが、MDMのインストールを義務付ける方針を予定しているという。
「私物のiPhoneにMDMを入れて会社から管理されるのは嫌だという意見は当然あります。当社のBYODはあくまでも任意。自身の業務効率化とのトレードオフを考えて、希望者だけがBYODに移行するという運用で、現在検討中です。細かい運用ルールを詰めて、年内にも本格導入する計画です」(才賀氏)
iPhoneはちょっとした時間でもすぐにメールを確認できるので、iPadよりも隙間時間の効率利用には効果が高いと同社では見ている。ただiPhoneはiPadよりも画面が小さいので、メールやスケジュール、SFAの確認がメインになるだろうと才賀氏は言う。
また、BYOD導入には社員のセキュリティ教育も欠かせない。同社では導入時の勉強会実施やeラーニングの定期的な実施などにより、情報漏えいの危険性やSNSへの書き込みにかかわるリスク管理、紛失・盗難時の対処などを徹底的に浸透させるつもりだ。
BYODと並行して進めている取り組みは、営業が個人で管理していた名刺を自社開発のSFAに取り込んでナレッジ化すること。こうした先進的なIT活用や、iPad/iPhoneなどの新しいデバイスを積極的に取り込む姿勢が同社の競争力を生み出しているのだろう。
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