「信頼回復に向けた第一歩を踏み出せた」――ドコモがネットワーク障害対策の進捗を説明
ドコモが、2011年8月から発生した一連のネットワーク障害対策の進捗状況を説明。設備増強などを着々と進め、現在は「spモードシステムとパケット交換機とも安定して運用できる状態」だという。
NTTドコモが、2011年8月から発生したネットワーク障害への対策についての進捗状況を2月21日に説明した。
2011年8月16日にspモード経由でインターネット接続しにくくなる障害、12月20日にはspモードメールで他ユーザーのメールアドレスが誤って設定される不具合、2012年1月1日にはspモードメールが利用しにくくなったほか、メールの不達メッセージが届かない障害が起きた。これらはいずれもspモードシステム上で起きたもの。1月25日にはパケット交換機の障害により、東京都の一部地域でFOMAの音声通話とパケット通信が利用しにくい障害も発生。これらのネットワーク障害を受け、総務省がドコモに行政指導を行うまでの事態になった。
総務省からの行政指導を踏まえてドコモは、2月19日までに「spモードの信頼性向上に向けた対策」と「パケット交換機の処理能力の総点検」を実施した。代表取締役社長の山田隆持氏は「spモードシステムとパケット交換機とも安定して運用できる状態であることを確認できた」と説明。同社は今回実施した対策を土台とし、スマートフォン5000万台にも耐えうるネットワーク基盤の高度化実現を目指す。
ネットワーク障害の再発防止に向け、ドコモは2011年12月25日にネットワーク基盤高度化対策本部を設立し、「組織」「業務」「設備」の3点から対策を進めている。組織面では、spモードシステムの再検証と処理能力向上を推進するため、1月11日に14人から成る「高度化推進室」を設置。2月13日には人為故障の撲滅を推進するためのプロジェクトを発足。開発部門とベンダーと連携して24時間対応できるホットラインも形成した。またNTTグループ(NTTコムウェアやNTTコミュニケーションズなど)と連携し、IP技術者を10〜20人ほどドコモに受け入れるお願いもしており、「一部の技術者は来てくれることが決まっている」(山田氏)という。
業務面では、ユーザーに迅速かつ的確に情報提供できるよう徹底する。通信障害などが発生した際は、これまでと同様にWebページで案内するほか、ドコモショップやコールセンターにも素早く情報を共有し、「(これまでと違い)今はショップやコールセンターですぐに対応できる体制になっている」(山田氏)という。2011年12月20日のspモード障害発生時には、専用のコールセンターも設置した。
設備については、spモードシステムとパケット交換機の対策を行う。spモードシステムではパケット交換機から端末にIPアドレスを通知するタイミングを見直し、spモードシステムでIPアドレス登録完了後に通知するようにした。これにより、電話番号とIPアドレスの不一致が発生しなくなるという。したがって現在は、万が一輻輳が発生しても他人のメールアドレスが設定されるといった事態は起こらない。このために変更したソフトウェアをspモードの認証系サーバ24台とパケット交換機201台に実装しており、作業は2月19日に完了した。伝送路が故障した際に端末が一斉に再接続をする「バーストトラフィック」への対策として、通信中のユーザーのみが再接続をするように4月下旬までに処理を完了させる。通信をしていないユーザーについては、Androidの仕様上、遅くとも28分に1回は通信をするようになっている。
パケット交換機は2月19日までに201台を総点検し、「新たなソフトを導入したことで、(端末と通信設備との間でやりとする)制御信号が各交換機にどれだけ送られていたかが分かった」(山田氏)。ドコモはパケット交換機が処理できる制御信号と同時接続の許容範囲を最大80%に設定し、制御信号と同時接続のリソース使用率が高い交換機のあるエリアから、優先的に設備を増強する。現在は6台の新型パケット交換機を導入しているほか、2月25日には東京都23区の一部に2台、3月3日には愛知県の一部に3台など、2012年4月までに計40台の新型パケット交換機を導入する。当面は新型/旧型パケット交換機の両方を併用する形になる。あわせて、2012年8月中旬までにパケット交換機の制御信号の処理能力を向上させる。
パケット交換機は未明(深夜1時から6時ごろまで)に増設する。その際、配下にある無線制御装置のデータを入れ替えるため、該当エリアでは、5〜10分ほど通話とパケット通信ができなくなる。ただ、「都内は基地局が超密にあるので、1つの基地局が5〜10分使えなくても隣のエリアの電波で使えることもある。すべてのお客様が影響を受けることはないだろう」と取締役常務執行役員の岩崎文夫氏は説明する。このように一時的に通信が止まるエリアについては今後、Webサイトで地図とあわせて案内し、より詳細なエリアが分かるようにする。
パケット交換機に負荷を掛ける制御信号は、スマートフォンアプリで通信をする際に発することから、アプリ提供者への協力も求めていく。「2月15日にdメニュー提供者(700社)を招いてのイベントを実施した際には、一連の障害や制御信号がネットワークに負荷を与えてることを説明した。提供者からは、今まではPC向けを中心にアプリを作っており、無線環境での問題はあまり意識していなかったという話も出た。無線環境では周波数の有効利用が必要。制御信号をどう扱うかの検討は進んでいないが、(開発者と)コミュニケーションを深めていきたい。Googleとの話し合いも進めている」と代表取締役副社長の辻村清行氏は説明した。
「一番反省をしないといけないのは、スマートフォンが伸びてきたときにトラフィックばかりに目が行っていたこと。制御信号を甘く見ていた」とネットワーク障害の主因を話す山田氏。再発防止への取り組みが着実に進んでいることについては「信頼回復に向けた第一歩を踏み出せたのでは」と評価する。「これまではお客様から安心・安全のドコモと理解されていたが、障害を起こして申し訳なく思う。信頼回復に努めるとともに、全社一丸となってスマートフォン5000万台に耐えうるネットワークの基盤構築を実現させたい」と力を込めた。
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