海外で人間関係を作る方法樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」(2/2 ページ)

» 2010年07月14日 10時00分 公開
[樋口健夫,Business Media 誠]
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その2:占いの本を持っていく

ALT 黄小娥『易入門』

 もう1つのアドバイスは、占いだった。「何か占いの本を買って持っていくといいよ。パーティーの時に占いをやってごらん、すごく喜ばれるから」と言われたのだ。そこでわたしは当時の大ベストセラーである『易入門』(黄小娥著、当時はカッパノベルズ)という新書本を買って持っていった。

 シドニーに滞在し始めて、何度か友人宅のパーティーに呼ばれた後、ふっとこの本を持参していたことを思い出した。この「易入門」はコインを6枚用い、その裏表で占いをするという内容。見開きページごとに、コインの裏表の組み合わせすべてについて占いが説明されているという構成だ。占うにはコインが6枚必要なので、ケネディコインをたくさん持っていた下宿仲間から6枚譲ってもらった。

 ケネディコインはハーフダラーの銀製コインである。当時はまだ1ドル360円の時代だったし、このコインは初めのころ純度の高い銀で造られていて、机の上で投げて、ぶつかると良い音がした。また、ケネディの首の銃弾が当たったところに印が付いていたはずだ。どことなくミステリアスなコインだった。

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 ある日、『易入門』とコイン6枚をポケットに入れ、わたしはパーティーに出かけた。パーティーのオーナーに、「占いをやりましょうか? むろんタダです」と言った。

 「すごい、占いができるの? それは面白い。何が必要かね」「小さなテーブルとカバーの布。椅子を2つ。それとビールですね。占いは飲んで行います」「おお、それは素晴らしい! やってくれ。きっとみんな喜ぶよ」そう言って、オーナーはテーブルとビールを置いていった。

 テーブルをセッティングして『易入門』を横に置き、しばらく待っているとお客が来た。「占いですか?」と年配の女性が尋ねる。「はい、実を言えば、この本に書かれた内容を翻訳して説明するだけです。そこにお座りください。そして、この6つのケネディコインをテーブルの上に投げてください」

 女性が投げたコインの裏表のパターンに従って、わたしはそのページを開け、本にある解説を翻訳しながら静かに読み始めた。ただ、それだけだったが、彼女は大きく反応したのだ。「そんなことが、どうして分かるの」と驚いている。体のこと、人生のこと。今悩んでいること……女性の顔が急に真剣になり、「じゃ、どうすればいいの?」と言う。この本では占いの後半に対処策が書かれているので(それほど具体的ではないが)、それを訳して伝えた。だいたい、肯定的、前向きな内容だったと覚えている。

 彼女はとても感心した。「あなたにいくらお支払いすればいいの」と言われたので、「いや、無料です。ここのご主人の友人ですから」と答えたら、本当に感激して去っていった。

 とたんに、テーブルの前にどんどん人が並び始めた。昔の記憶だから曖昧なところはあるが、4人のうち3人くらいは、占いの説明に心当たりがあるという反応だった。ずらっと並んでいて、わたしはパーティーの間中ずっと占いをしていた。ビールは、主人がどんどん持ってきた。

 わたしが無料だというのに、チップを、それも相当なお金を見料として置いていく人も現れた。ビールのコップにお金を突っ込んでいたら、それが見せ金になったのか、もっとお金が増え始めた。「占いはおいくらですか」と聞かれるたびに「無料です」と答えていたのに、パーティーが終わるころには、こんなにもらっていいのかと思うほど、お金が残った。

 ある若い男性は、「お願いだ。女性を連れてくるので、彼女を占って、わたしのことを推薦してほしい」と交渉してきた。そこで肯定的に“ネタ本”を読んであげると、男性は背後で小躍りして喜んでいた。彼も帰る間際にわたしのところに来て、わたしのポケットにお金を突っ込んでいった。

 帰り際、パーティーのオーナーにお金のことを相談したら、「それは当然、君のものだよ。すごく評判が良かった。また、ぜひ来てほしい」と言われた。

 こうしてわたしは何度かほかのパーティーにも招待されて、占いのテーブルを開いた。ほんのちょっとした言葉でも、お客は大きく反応するのだった。知恵を授けてくれた先輩に感謝している。

 もちろん、占いを職業や仕事にするつもりは全くなかったが、友達づくりには大いに役立った。あの当時、手相も少し調べて、占いに付け足していたように覚えている。海外では、どんなことが役に立つか分からない。

今回の教訓

 焼き鳥と占いは世界に通用する。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら



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