コラム
» 2010年09月15日 14時02分 UPDATE

元祖ライフハック! 梅棹忠夫の京大カードは現代でも通じるか

iPhone、iPadにEvernote、Dropboxなど、今やPCやWebサービス、それに各種スマートフォンによる各種ライフハックが花盛りだが、故梅棹忠夫氏が提唱した「京大カード」をご存じだろうか。今回は、京大カードが今日のライフハックツールと比較してどんな特徴を持っていたのか確認したい。

[舘神龍彦,Business Media 誠]
st_RIMG0967.jpg コクヨの京大カード「情報カード B6」。やや厚めの紙で京大カードのコンセプトに忠実な商品
st_RIMG0971.jpg 全国大学生協が発売していた「B6 REPORT」。リポート用紙のように薄いタイプ

 iPhone、iPadにEvernote、Dropboxなど、今やPCやWebサービス、それに各種スマートフォンによる各種ライフハックが花盛りだ。読者の皆さんは、こうしたライフハックが登場するずっと前に日本で爆発的な人気を得たツールをご存じだろうか。それが京大カード(京大式カード)である。今回は、京大カードが今日のライフハックツールと比較してどんな特徴を持っていたのか確認したい。

 京大カードとは、元京都大学教授の民俗学者・故梅棹忠夫氏が発案したもの。2010年7月に他界した同氏は、著書『知的生産の技術』の中でB6サイズの情報カードを「京大カード」として紹介した。

 同書で紹介した使い方や応用方法は、恐らく日本でもっとも最初に普及した日常の記録ツールだったであろう。このカードの使い方はまさに日本の元祖ライフハックというべきものだった。なお同書によって、“知的生産”というキーワードに注目が集まり、現在に至るまで使われているのはよく知られている。

1965年のユビキタスキャプチャー

 『知的生産の技術』はいつ生まれたのか。同書によれば、これは1965年の雑誌『図書』(岩波書店)にて連載した記事「知的生産の技術について」が基になっている。この連載11回分をまとめたのが同書だ。

 京大カードが流行したのは、PCはおろかワープロすらなく、ようやくかなタイプライターが出現した時代であることに注意しよう。こういう時代に京大カードは注目され、受け入れられた。その使い方のポイントは以下の3つ。

  1. 常に携帯し、気付いたことがあればメモする
  2. 1枚に1つの情報を記録する
  3. ときどき見直し、カード同士の関係から再発見をする

 ――ということである。携帯するツールでなんでも記録するわけだ。今風に言えば「ユビキタスキャプチャー」である。

 モレスキンだったり、iPhoneの各種アプリだったり、あるいはA6ノートだったりとツールはいろいろだが、日常で発見した事柄を逐一記録して蓄積するという考え方において、京大カードはユビキタスキャプチャーの先駆的存在だった。

st_RIMG970.jpg 京大カード専用の保管ボックス。背の部分はタイトルラベルが貼ってある

 ただ保存する場所や方法は異なる。京大カードはかたっぱしからメモして、保存箱に保存し、それらをときどき見直したりする。かたや現代のユビキタスキャプチャーは、最終的にはWebストレージとかEvernoteのようなツール上に情報を集約していくのが流行り。TwitterでつぶやいたことをEvernote上に保存する「ツイートメール」のようなツールもある。

 京大カードを保存箱に一括管理するにしても、Web上のコンテンツをEvernoteで管理するにしても、メリットは同じだ。情報の一元保存と検索可能性を高めることである。もちろん手書きの京大カードには検索するにも限度があったであろうが。

 一方、カードのメリットは記入した情報と物理的単位が一致することだ。そのことによって情報相互の組み合わせが可能になるからである。

 デジタルデータでも、使い手が意識しさえすれば、1ファイルにつき1つの情報という運用も可能だ。とくに最近のデスクトップPCでは20インチ前後のワイドディスプレイが標準になりつつあるので、複数ファイルを同時に開くのに制約が減ったと言える。

物理的な質量の有無が産む差とは

知的生産の技術 知的生産の技術

 デジタルデータと京大カードに違う点があるとすれば、それは物理的な質量を持つかどうかだろうか。

 京大カードは、それまで綴じたノートに記録していた各種情報を、時系列的な秩序から解放した。そのことで、情報の蓄積と情報相互の組み合わせが可能になった。PC上のデジタルデータでもその辺は同じだろう。

 もし違う点があるとすれば、それは物質的な質量を持っているかどうかではないだろうか。デジタルデータはまた、Wordファイルと動画、画像など各種形式の情報を同時に閲覧できる。これは京大カードがどんなに頑張っても到達し得ない境地である。

 ただ、京大カードは、情報を文字通りつかんだり重ねたり、組み合わせたり、場合によっては捨てたり破ったりすることができる。

 この直感的な感じは、ディスプレイの中のデータにはできないことだ。手でつかんで、並列したり組み合わせたりを、事と次第によってはテーブルいっぱい、床いっぱいを使ってできる。これが京大カードを含む各種情報カードの大きなメリットではないだろうか。

 また、PCと組み合わせて自作リフィルよろしく専用のフォーマットを印刷したり、再読するような情報を印刷して持ち運び、参照するようなやり方も今ならば可能だ。


 京大カードは現在も文具店で入手可能。この物理的な質量を持つ情報記録ツールは、記録後の編集やメールでの送信、あるいは簡単な複写など、デジタルな特徴は備わっていない。それでも安価であり物理的な実体を持つがゆえのメリットは現在でも評価できるのではないだろうか。

 『知的生産〜』ではこのほか、カード使いの元祖が新井白石であることや、カードが野外調査と、京都大学内でルソーに関する共同研究の両方に使われたこと、またカードがB6サイズである理由として、単なる覚え書きではなく豆論文をきっちり書くためであること。また、現在の文具ブームを予言するような事柄や、当時の知的生産の環境など、興味深いことがいくつもかかれている。それはいちいち紹介したらきりがないほどだ。これらを確認するためだけでも同書を一読する意味はあるだろう。

著者紹介 舘神龍彦(たてがみ・たつひこ)

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 アスキー勤務を経て独立。手帳やPCに関する豊富な知識を生かし、執筆・講演活動を行う。手帳オフ会や「手帳の学校」も主宰。主な著書に『手帳進化論』(PHP研究所)『くらべて選ぶ手帳の図鑑』(えい出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『システム手帳の極意』(技術評論社)『パソコンでムダに忙しくならない50の方法』(岩波書店)など。


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