「景況感が上向きに転じながらも、円高など不安材料が依然として残っている。このような2004年は、景気の回復を他力本願で期待するのではなく、自助自立の精神で乗り切らなければならない」
1月8日に行われたシャープの年頭記者会見は、シャープ代表取締役社長町田勝彦氏のこの言葉から始まった。
「昨年の年頭に“2003年は液晶テレビにとってエポックメーキングの年になる”と予言したが、液晶テレビの売り上げがブラウン管テレビを上回るなど、まさに言ったとおりになった」と液晶テレビが牽引して好調だったAV事業にたいして、前年度比110.6%と、シャープは2004年も大きな期待をかけている。半導体などのデバイス分野も、出荷が好調なデジタル家電用の影響を受けて、2003年と比べて113.2%と2年連続の二桁成長を見込んでいる。
その一方で、著しい単価ダウンで苦戦を強いられている電化製品分野は横ばい、PCや成長がペースダウンすると見られている携帯電話などの情報通信分野も101.5%の微増と予測している。
シャープが“業界の動向”以上に注意を払っているのが、近年大きく変化している「ユーザーの動向」。従来、自分の生活や既存の製品に対する不満を解消するために新しい製品を購入するといった「不満を解消する」消費から、いまそこにある不安に対して「自ら明日に備える」消費に変わってきていると、町田氏は説明する。
「今の商品に対してほとんどのユーザーは不満を感じないようになっている。その代わりに、先行きの不安が続くなかで、他人任せで不安を解消するのではなく、自分で不安を解決するために消費するようになっている」(町田氏)
このようなユーザー動向の変化によって、新技術が購入動機になる「世代替えマーケット」、ノンフロンや太陽電池などの環境的貢献が動機になる「環境役立ちマーケット」、マイナスイオンや除菌機能など自分の健康に投資する「元気・安心マーケット」といった三つの新しい市場が立ち上がるとシャープは提案している。
とくに世代替えマーケットに対してシャープは「既存商品に不満を感じていないユーザーにも、新しい消費を生み出さなければならない。このような消費では新しい技術で大きく変化した商品が売れるようになる。商品に革命を起こさなければならない」(町田氏)と考えている。
そして“革命を起こす”商品を生み出すために、シャープは従来の「ユーザーの不満を解消する“ユーザーオリエンテッド”な方法ではなく、新技術を採用してユーザーを驚かせるような“テクノロジーオリエンテッド”な手法で」商品開発を目指すとしている。
2004年の重点事業として取り上げられた液晶事業の説明では、大型液晶パネルの生産拠点として1月8日に稼動を開始した亀山工場や、中小型液晶の生産拠点として3月に新しいラインが稼動する予定の三重第3工場が紹介された。
亀山工場の建設は3期に分けて進められているが、第2期ラインは8月に稼動する予定。第3期工事も「2004年度中の稼動を目指したい」(町田氏)としている。第3期まで含めた投資額は1500億円が見込まれている。
町田氏は、液晶パネル事業で外販ビジネスに積極的に取り組むことも明らかにした。外販と内需の比率については「2004年は外販4割程度。ただし中長期的には50%程度の外販比率が理想的と考えている」(町田氏)
液晶テレビと並んで2004年の重点事業として紹介されたのは、今年で41年めと長い歴史を誇る太陽電池事業。住宅用を中心に日本だけでなく欧米でも需要が伸びていて、2004年には20%の成長を見込んでいる。それに伴ない、現在250メガワットの生産能力を350メガワットに拡張する予定だ。
廃止が噂されてる太陽電池取り付けに伴なう補助金支給については「最終的にはなくなるだろう。ただしその負担をユーザーに負わせるわけにはいかない。エネルギー効率の向上や材料などのコストダウンでメーカーが吸収する必要があるだろう」(町田氏)との見解を示した。
設備投資については「2004年は2200億円を予定しており、そのうち1300億円を液晶関連に投資する。また、そのうちの1000億円は大型液晶パネルに、300億円が中小型液晶パネルに使う予定」(町田氏)と説明した。
質疑応答では、デルなどPCからの液晶テレビ市場新規参入や、有機ELなどの取り組みについて質問がでたが、「デルなどの購入層はPCユーザーが中心。20インチ以下の市場は新規参入によって競争が激しくなるが、テレビで主流の大型液晶市場では大きな脅威として見ていない」「有機ELには寿命的な問題がまだ残っている。寿命が問題にならない携帯電話では利用が増えるだろうが、テレビ用としてはさらなるブレークスルーが必要」と回答している。
また、苦戦を強いられている白物家電やPC事業については「白物家電は、いくら生産拠点を海外に移転しても既存技術のままではだめ。革新的な技術で“白物革命”を2004年は進めていく。技術的革新が可能なものは残していくが、それができない場合は止めることも考えなければならない。PC事業も利益を出しにくいため拡張路線はとらない。付加価値がある製品以外は出していかないようになる」(町田氏)と述べている。
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