コラム
» 2004年03月26日 12時12分 UPDATE

パケット料金改訂に垣間見えるドコモの「本音」と「本性」

ドコモが大規模に行ったパケット料金の改定。噂の「定額制」もあった事で、au対抗策にも見えるが、ネットワークの混雑対策や料金面では、両社の違いが明確に現れる。今回の料金改定からドコモの本音と本性を分析する。

[神尾寿,ITmedia]

 既報のとおり、24日にNTTドコモがパケット通信料の改定を行った。世間を喧しくさせていたのはパケット料金定額制の行方だったが、これは「パケ・ホーダイ」として6月1日から開始。さらに従来からあるパケット料金割引サービス「パケットパック」シリーズの料金も5月1日から改められることになった(3月24日の記事参照)。

 今回のドコモの発表は、auに対する対決色の強いものだと見られている。特にパケ・ホーダイは月額オプション料金を3900円と、auのパケット料金定額制「EZフラット」(月額4200円)を下回る金額にしたため、単純にドコモがauに追従・反撃したように見えるだろう。

 しかし筆者は、ドコモとauの「通信」に対する考え方の違い、温度差を強く感じた。ドコモのパケット料金改定の根底には、ドコモ自身の本音と本性が色濃く投影されている。

ライトユーザーと従量制重視する新パケットパック

 ドコモのパケット料金改定で、筆者が注目し、かつ高く評価しているのがパケットパックシリーズの値下げである。特にパケットパック10(月額1000円で無料分1000円、1パケット/0.1円)の設置は大きなポイントだ。

 これまでパケット料金割引というと、auのパケット割(月額1200円、無料分800円、1パケット/0.1円)のほうがユーザーの認知度が高く、評価される傾向にあった。FOMAの旧パケットパック20(月額2000円で無料分2000円、1パケット/0.1円)は、割引率ではパケット割よりよかったものの、それほど支持されていなかった。これはパケット通信のライトユーザーにとって月額2000円のオプション料金は高すぎたからだ。

 ドコモは今回の料金改定で、月額オプション料金が安いものほど値下げ率を高く設定した。パケットパック10が旧20に対して値下げ率50%なのに対して、パケットパック30と60はそれぞれ旧価格帯から25%の値下げに留まる。

 これが意味しているのは、ドコモがパケット通信のライトユーザー層の獲得と囲い込みに、危機感に近い必要性を感じているということだ。

 単なる「au対抗」だけならば、パケットパックは月額オプション料がすべて無料分になるので、auのパケット割と同じオプション価格にするだけでも競争力があったはずだ。それよりさらに200円安い「1000円」というプライスタグをぶら下げたところに、「市場の“マス”であるライトユーザーは絶対に渡さない」という本音がちらりと見える。

 パケット通信のライトユーザーは、翻れば「ごく普通のユーザー」であり、ドコモの最大顧客。1000円から使えるパケットパック10によって、この層のau流出を食い止めようとしている。

 一方、パケットパック30と60の存在は、ミドルユーザー向け。また定額制が適用されないPC利用者の救済策としても使われる。

 auにもパケット割の上には、「PacketOneパック」シリーズのパケット料金割引があるが、あまりユーザーに周知されておらず、パケットパック30や60と比べると影が薄い。auでは「パケット割の上は定額制のEZフラット」という姿勢が強い。

 対してドコモのパケットパックは割引率が高くて使いやすい。さらに詳しくは後述するが、都市部など基地局が混雑しやすいエリアでは、通信スピードが定額制のパケ・ホーダイより有利になるように設定されている。

 これは、ドコモはパケ・ホーダイを投入しながらも、未だに「パケット従量課金+パック割引」の路線を重視していることを意味しないだろうか。

 今回のパケットパックシリーズ値下げの裏には、ライトユーザーとパケット従量課金を重視するドコモの本音が隠されているように見える。

auとは逆の発想を持つパケ・ホーダイの混雑回避

 では、パケ・ホーダイの意味は何だろうか。

 ドコモとauの定額制における2つの「違い」から、それが見える。

 まず定額制で問題になる基地局の混雑回避へのアプローチだが、NTTドコモの立川敬二社長は、「パケット通信はベストエフォートなので、(優先度という)クラス分けによるネットワーク制御ができる。この仕組みはネットワーク側の対応でできるので、すべてのFOMA端末でパケ・ホーダイが利用できる」とパケ・ホーダイのシステムを紹介した。

 パケ・ホーダイでは、混雑時にはユーザーの通信を「優先度」という形でクラス分けし、パケ・ホーダイユーザーは通信速度が抑えられる。一方、パケット従量課金プランのユーザーの方が「優先」されて、先に処理される。定額制のパケ・ホーダイユーザーは、混雑時は割り当てる帯域幅を減らしてスピードを落とすが「我慢してほしい」という理屈だ。

 一方、auのEZフラットでは、CDMA 1X WINのコア技術1x EV-DOが持つ「適応変調方式」という仕組みを使う(2001年7月の記事参照)。

 適応変調方式では、ユーザー端末が置かれた電波状況に応じて、最小32Kbpsから最大2.4Mbpsまで9段階のモードを1.6ミリ秒単位で切り替える。基地局から強い電波が受けられるユーザーほど最大2.4Mbpsに近いスピードが出るのだが、この際、電波環境のいいユーザーほど高速な通信モードを優先的に割り当てて多くの帯域を使わせる。

 「パケット通信ではタイムラグが許されるので、条件のいいユーザーに最大能力を割り当てて先に要求を終わらせた方が、結果的に(基地局)全体の処理能力が上がる」(KDDI au事業本部au事業企画本部長執行役員の沖中秀夫工学博士)

 1X WINでは、電波環境が不利な位置にいるユーザーは一時「待たされる」が、スピードが出るユーザーがさっさと通信を終えてくれたほうが、結果的に通信完了までの待ち時間は短くなるという。あくまで合理的かつ迅速な処理のための優先順位づけであり、定額制の有無は関係ない。

 実はドコモも1x EV-DOと同じ「適応変調方式」を持つ3G技術「HSDPA」を開発中で、来春に投入される予定だ(3月3日の記事参照)。つまり定額制の実現にあたってHSDPAの開発と市場投入を急ぐという選択肢もあったはずだ。

 技術の開発とサービスへの昇華には、経営者や会社の持つセンスと考えが影を落とす。

 auが1x EV-DOの早期投入でEZフラットを実現したのは、データ通信に最適化した合理的なネットワーク設計で、定額制と高速性の両立を重視したからだろう。一方、ドコモは将来的な需要として定額制を見据えていたが、高速性はさほど重視していなかったのではないか。

 この裏付けになるのが、ドコモが目指す次のステップ「生活インフラ化」への道だ。24日の会見で立川社長は、「生活インフラになるのに、いちいちパケット料金を気にしていたら、ユーザーは安心して使うことができない」とも話した。生活インフラとしての活用ならば、スピードはあまり重要ではない。“定額制であればよい”のだ。

電話至上から抜けられない、ドコモのパケ・ホーダイ

 もうひとつ、大きな違いになっているのが、料金面での考え方だ。

 立川社長は、「いくらパケット通信といっても、電話サービスとは切り離せない。すでにFOMAをたくさん使ってくれている人からパケ・ホーダイを使ってもらいたいという点で、FOMAプラン67以上とセットにした。(音声料金プランを含めた)総額では確かに1万円を超えるが、1年割引やファミリー割引を使えば8000円くらいになるのではないか」と説明した。

 しかし、auにもドコモと同様の基本料の割引プランがある。パケット通信を中心に使い、音声通話が少ないユーザーから見れば、パケ・ホーダイの実質価格の割高感は否めない。

 そもそもパケット料金定額制を使うユーザーが、音声通話量が多いとは限らない。コンシューマーユースに関しては、むしろ逆だ。例えば固定電話の世界では、インターネットとブロードバンド通信の普及により、音声通話量が激減した。むろん携帯電話に浸食された分を加味しなければならないが、それでも減少傾向にあったことは間違いない。

 立川社長は、携帯電話の役割がITインフラから生活インフラまで広がっていること示して、「これからは『携帯電話』ではなく、カタカナで『ケータイ』と呼んでいきたいですね」と話した。しかし、少なくともパケ・ホーダイの料金は、この発言とは全く逆の方向性。「電話至上主義」の王道を歩んでいる。

 一方、auは、音声料金プランとパケット定額制はあくまで「別」だと考えている。

 「EZフラットはパケット通信を積極的にやりたい人にも出していきたい。だから最も安い音声料金プランのプランSSから適用可能にしている。きちんと(加入者)データを取っているわけではないが、パケット料金定額制を利用するユーザーは、従来よりも音声料金プランのランクは落とすのではないだろうか。それが普通の感覚だと考えている」(KDDI広報部)

 これまでの通信業界の歴史からいえば、「電話」から「通信」への変遷は必然に近い。

 また筆者はパケット定額制で新しい携帯電話の利用スタイルや文化を創るのは、若者を中心にした「パケット通信中心でケータイを使い、音声通話は必要最小限」の層だと考えている。その視点からいえば、ドコモのパケ・ホーダイの考え方はあまりに古くさく、頑迷な老人のような印象を受ける。

 ドコモ自身、1999年のiモードで率先して範を示したではないか。なぜ、今さら時代に逆行するような電話至上主義を持ち出すのか。ドコモが今後めざす生活インフラ化の道も「通信」に根ざしており、「電話」にこだわる必要性はないはずだ。

 パケ・ホーダイの料金から見えてくる「電話思想から抜け出せない」というのがドコモの本音であり、本性だとしたら、筆者は残念でならない。

性格が分かれはじめたドコモとau

 パケ・ホーダイの料金設定には大きな不満と疑問を感じるが、今回のドコモのパケット通信料の改訂が歓迎すべき前進であることは間違いない。恩恵を受けるユーザーは多く、それを高く評価したい。

 また、ドコモとauの性格付けが、サービスと料金の両方ではっきりしてきたといえるだろう。

 ドコモはライトユーザーを重要視し、生活インフラ化のためのパケット通信サービスと料金を打ち出す。一方、auは定額と高速の両立で、通信会社の本分に沿った形でモバイルブロードバンドの実現と、携帯電話のIT/メディアインフラ化を推進する。

 どちらの考えにも理があり、そこに優劣は存在しない。ユーザーがキャリアの考えや本音を見極めて、自分のニーズやライフスタイルに合わせて選ぶ時代になろうとしている。

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