連載
» 2004年06月03日 22時35分 UPDATE

地デジ+モバイルが生み出す世界(4):技研公開で見えた「1セグ放送」NHKの問題意識

動画圧縮方式も固まり、サービス開始のメドが立ったかに見える1セグメント放送。しかし現場からは、まだ課題が残っているとの声が聞こえてくる。「放送の文化」と「通信の文化」の衝突もあるようだが……。

[中村実里,ITmedia]

 主役は“携帯”だった。5月27日から30日まで開催されたNHK放送技術研究所の公開展示(技研公開)では、会場入り口の正面に「1セグメント放送」関連の研究成果が並んだ(5月28日の記事参照)。

 長く調整が続いていた映像圧縮技術に対する特許料の交渉・規格化も、「AVC/H.264」を採用することでようやく決着(3月24日の記事参照)。これを受けて“2006年初めごろに1セグ放送をスタートさせる”という新たな目標を掲げた、関係者らの気迫が伝わってくるようだ。NTTドコモが自社のコンセプトモデルを持ち込み、説明員を派遣したのも異例の試みとして注目された。

 もっとも、発表された研究成果を改めて「商用化」という視点で見つめ直してみると、あいまいなまま残っているグレーゾーンも浮上してくる。これから先、サービス開始までに何を決める必要があり、何が課題として残っているのかを明らかにしていこう。

最大の課題は、「AVC/H.264」への対応

 NHK技研 マルチメディアサービスの国分秀樹主任研究員は、「今後の最大の課題は、AVC/H.264への対応」と話す。

 圧縮技術のライセンス交渉中にも、現場ではもちろんAVC/H.264の検証が進められていた。その特徴は、「MPEG-4」と比較して画質が良いかわりに、映像処理の負荷が非常に高く、強力なCPUパワーを必要とする――という点だ。

 国分氏は、少なくとも現在の携帯電話に搭載されるCPUレベルでは、対応が難しいと指摘する。今後さらなる検証が必要になるが、端末開発メーカーの努力にも期待したいとした。

 メーカー側から見れば、圧縮技術がAVC/H.264に決まった時点から、開発のゴールが遠のいた格好となった。もしMPEG-4で決まっていれば、従来から携帯電話での動画再生にMPEG-4が採用されていたこともあり、豊富な開発経験を生かせる。手間も時間もコストも、格段に少なかったことだろう。結局、動画圧縮技術に関するしわ寄せは端末開発メーカーに集中することになりそうだ。

 課題の2つ目は、コンテンツの権利保護の問題だ。2004年4月からBSデジタルや地上デジタル放送では、B-CASスクランブルを施して1度しか録画させない、いわゆる「コピーワンス放送」を開始している。これらの放送を視聴するためには、スクランブルを解くための鍵データを生成する“B-CASカード”を受信機に差し込む必要がある。

 この流れで、携帯電話にもB-CASカードを差し込むことになれば、開発コストがさらにかさむことが懸念される。そもそも、QVGA程度の“比較的低解像度”の動画再生で、このようなスクランブルが必要なのか疑問視する声も多い。この問題は、かなり以前からのグレーゾーンだが、まだ明確な答えが出ていない。

 3番目の課題が、「映像、データ放送、メールやチャット画面など、表示部の組み合わせ方」だという。テレビを視聴しながら、通信を利用して視聴者どうしのコミュニケーションを行えるようにすれば、利用者にもメリットをもたらし、通信事業者の新しい収入源にもなる。一方で放送局側には、視聴者が広告に接触しなくなってしまうのではないかという懸念が残り、対応には慎重だ(5月13日の記事参照)。

 テレビ視聴中は、データ放送などの画面を出しても、必ず映像表示を必須とすることは決まったようだが、データ放送や、メール・チャット画面が、1画面にどのように入ってくるのか、あるいはメール・チャットを終了したら、どの画面に切り替わるのかなど、細かい部分は検討中。さらに、データ放送からさらなる情報を取得しようと視聴者がアクションを起こした場合、アクセスする先は放送局側が運営するサーバなのか、通信事業者側が管理するサーバなのか、このあたりのサービスモデルについても十分な整理がされていないようだ。

「放送の文化」と「通信の文化」の衝突

 「技研公開」の会場内において、NHK関係者からは次のような本音も聞かれた。「各通信キャリアの仕様によらない、“共通の範囲で”1セグ放送を供給したい。キャリアごとにコンテンツを用意する作業負荷は絶対に避けたい」(NHK関係者)というのだ。

 視聴者に対して共通の放送を届けなくてはいけないというのが、これまでのテレビの文化。一方の携帯電話は、キャリアごとに特徴のある機能・サービスを提供する文化といえる。各通信キャリアとしては、例えば放送とアプリを連動させるなど、キャリア独自のより付加価値の高いサービスを提供できなければ面白くない。新しいビジネスチャンスになるだけに、サービスの拡張性をできるだけ確保したいと考えるのも当然だ。

 このような関係各社の意識の違いからも明らかなように、「放送」と「通信」の全く異なる文化を融合させるのは、たやすいものではない。

 とはいっても、「2005年度中の1セグ放送サービス開始を考えるなら、ARIBで討議されている規格の最終決定は、遅くとも9月までに」と、国分主任研究員は規格化のデッドラインが迫っていることを警告する。開発期間だけでなく、十分なテスト期間も確保されなければならない。

 今回、披露されたような技術的な検証とはまた別に、1セグ放送の規格確定に向けた模索は続けられている。NHKを含め、多くの関係者がその動向を見守っている。

Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.