スペック競争で端末が売れていた時代も今は昔、最近の端末には、スペック以外の付加価値が求められるようになってきた。auの「INFOBAR」、ドコモの「premini」の注目度の高さがそれを裏付けている(1月25日の記事参照)。
こうした背景の中、ドコモが投入したのが一連の「コンセプトモデル」(2004年10月の記事参照)。ユーザーのライフスタイルからニーズをすくい上げ、デザインや付加機能に反映させた端末だ(1月25日の記事参照)。
中でもユニークなアプローチを図ったのがパナソニック モバイルコミュニケーションズ製の「Lechiffon」(1月31日の記事参照)。柔らかい素材を使った端末の製品化例はこれまでになく、また男性陣が気恥ずかしくて手を出せないくらい“女性向け”を意識した端末もあまり例がない。
Lechiffon登場の背景には、どんな狙いがあったのか──。パナソニック モバイルコミュニケーションズの開発陣に聞いた。
「きっかけは、ドコモからのオファーだった」と話すのは、商品企画グループで主任を務める周防利克氏。ドコモはFOMAへの移行を進める一方、技術的に成熟したPDCで“何か新しいことはできないか”と可能性を探っていたという。
そこでパナソニック モバイルが提案したのが異なるアプローチの2つの端末だった。1つはお家芸ともいえる薄型軽量化技術に素材の持つ高級感をプラスした端末。「大人が持って、かっこいい携帯を1つ作ろうと」(周防氏)。“P”に求められるものを素直に生かそうというというコンセプトから「prosolid」(11月30日の記事参照)が生まれた。
もう1つは「“P”の新境地に挑んでみよう」というものだ。「誰も手がけたことがないようなものを作ろうと。好きな人はむちゃくちゃ好き、いやな人は『え?』っていうくらい、ぶっ飛んだものを考えてみよう」(同)
そんな端末の候補に挙がったのが、柔らかい素材でくるまれた財布のような携帯電話。社内のアイデアディスカッショングループの1つ、“女子プロジェクト”(女子プロ)が提案したものだという。「新しい市場を開拓したり、新しい価値を提案したり──といった役割を果たせるのではないか」(同)。ここからLechiffonの開発が始まった。
Lechiffonは、これまでの携帯電話と異なる点が多い。折りたたみ型ではあるものの、折り曲げ部分にヒンジは使っていない。また外装も固いプラスチック樹脂ではなく合成皮革を採用している。「女子プロのコンセプトを形にした結果、このような製品になったが、完成形に至るまでには紆余曲折があった」(周防氏)
苦労したポイントは、大きく2つだと周防氏。1つは外装に使う素材選び、もう1つはヒンジを使わない折り曲げ構造だ。
「普通の折りたたみ端末に、ただ柔らかい布をかぶせただけでは新しさが出ない。折り曲げ部分がプラプラした状態では文字入力時に使いにくい……。伸ばしたときは普通の電話のように使えて、折りたたんだらコンパクトな形になる。なおかつアンテナが飛び出さないものを作るにはどうしたらいいのか──が議論された」(同)
素材選びは、機構設計者が布素材を扱うショップに行って、どんな種類の素材があるのかを勉強するところからスタート。「いいと思う素材があっても、耐燃性の問題や汚れに強い素材かどうか」(同)など、携帯電話に使う素材として適切かどうかも問われる。これらをクリアした合成皮革を使うと決まったあとも、「モックアップ製作の段階で、革素材が伸び縮みしてサイズが合わなかったり……」と、これまでにない苦労があったという。
ヒンジを使わない折り曲げ機構は、弾力性を持つ樹脂素材のエラストマーに薄い板状の金属製板バネを組み合わせた新機構を開発した。「保持力がありながら、反発力が強すぎないようにするため、板バネの形状はいろいろと工夫している。バネ1つとっても相当なノウハウが入っていて、それが開閉の自然さにつながっている」(第一モバイルターミナルディビジョン プロジェクトマネジメント室の大蜘蛛篤氏)
アンテナの位置も難しかったと大蜘蛛氏。ファッション小物を意識した端末からアンテナが飛び出しては、可愛さが半減してしまうため、アンテナは内蔵が必須。しかし多くのアンテナレス端末で内蔵アンテナを装備する場所になっているヒンジが、この端末にはない。そこでLechiffonでは、折り曲げ部分に薄いアンテナを入れることで対応した。
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