禁止でも出ている……? 韓国の補助金制度の実態とは韓国携帯事情

» 2005年03月22日 12時22分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 日本ではキャリアが販売店に補助金を出すことが認められているが、韓国では例外を除いて、それが法律によって禁止されている。2006年6月までという期限付きのため、通常ならあと1年で開放ということになるが、それを巡る政府やキャリアの思いが入り混じっている。

補助金をなくし公平な市場作りを

 補助金が禁止された一番大きな理由の1つとして、キャリア同士の顧客争奪戦により、行き過ぎた補助金給付をなくすことが挙げられる。

 消耗戦が続けば、補助金をより多く出したキャリアの端末がより売れ、資金力のないキャリアから自滅していくという不公平が生じるからだ。またこのほかにも、あまりに安い端末を売りすぎたため、学生が簡単に携帯電話を入手し、数万数十万という通信料を浪費するなどの社会問題などがあったのも事実だ。

 これ以前にも、補助金が認められていたわけではない。しかしそれは法によるものではなく、あくまで約款という形で、強制力がなかったのだ。そこで情報通信部は2003年3月、電気通信事業法を改正。法律により強制的に補助金支給禁止を実施した。

 法律では、たとえ1ウォンでも補助金を出せば直ちに処罰対象となる。処罰は割と重く、課徴金、営業停止はもちろん、代表者の刑事処罰、事業権取り上げまで可能となっている。とはいえ現状でも、多少の補助金が出ていることは暗黙の了解だ。出された補助金の行き着く先は代理店および販売店で、端末販売の対価として支給されるリベートに化けている。

 ただし補助金が認められている例外もある。法律では「新技術および新規サービス活性化」のために例外を設定するとされており、具体的には3G端末機、W-CDMA端末、PDA端末がそれに該当する。W-CDMA端末においては出庫価格の40%程度、PDA端末は25%程度が支給されている。

 ただしここで問題なのは「新技術」という曖昧な表現である。いってしまえば後発の端末はほぼすべて「新技術」に当てはまるという状況において、その線引きがたびたび問題となるのだ。具体的には今年から販売されているDMBフォンがいい例で、案の定補助金支給の可否が討議されている状況だ。

残る課題

 補助金禁止は携帯電話業界にとっては非常に大きな問題で、改正法律についても賛否両論だ。前述の通り、キャリアが補助金を出しているのは暗黙の了解である。さらにそれが「多少」では済まされない規模で、政府からも何度か課徴金を課されている。そのため、実効性に対して懐疑的な見方も多い。

 今年だけでも、新年早々からLG Telecom(以下、LGT)が40億ウォン(約4億円)、2月末にKTFが35億ウォン(約3億5000万円)、という課徴金を課されたケースが相次いでいる。

 最新の携帯電話を安価で買えるというのは、ユーザにとって何にも勝る魅力であり、キャリアはそれを百も承知しているからこそ、こうした悪循環が続くのである。しかし市場が飽和状態で、端末に限っては大半が買換え需要しか見込めないキャリアにとって、補助金の有無は生き残りを左右するほど大きな問題であるともいえる。

 KISDI(韓国情報通信政策研究院)が、昨年末に出した報告書によると、2003年2月から2006年6月まで、サービス市場の売り上げ損失額は約4兆5000億ウォン(約4500億円)、端末機市場の売り上げ損失額は3兆6000億ウォン(約3600億円)などで、移動通信市場全体の売り上げ損失額が約8兆1000億ウォン(約8100億円)にも達すると推定している。

 ただし補助金の禁止は、否定的な結果だけを生み出しているわけではないと、同報告書は続けている。過度な補助金支給合戦が続けば、収益悪化でキャリアの撤退につながり、それは結局サービスを受ける側である利用者に不便をきたす結果になるとしている。特に市場占有率の高いキャリアが低いキャリアを凌駕すれば、平等な競争はまず不可能となるということで、補助金禁止は十分意義があるというのだ。

 だからこそ補助金に対するキャリアの意見も、1:2で真っ向から割れる。市場占有率が50%を超えるSK Telecom(以下、SKT)は、補助金を許可してほしいというのが本音。その一方で、2位と3位のKTFとLGTは、来年6月以降も補助金支給の禁止を延長すべきと、SKTとは正反対の主張をしている。

 日本では、韓国が「インセンティブ廃止の成功例」として取り上げられることが多い。しかし実際は、ナンバーポータビリティなどの激しい競争でキャリアが違反を犯したり、未だに賛否両論の論争が巻き起こるなど、まだまだ課題は多い。

 韓国よりもキャリアの影響力が強い日本で、インセンティブを廃止したら果たしてどうなるか? そんな将来を占う上でも、ここ1年の韓国の動きに注目すべきだろう。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。

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