「Anycall」がスローガン変更――変わりはじめたSamsung電子韓国携帯事情

» 2007年10月12日 20時41分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 韓Samsung電子の携帯電話ブランド「Anycall」が、企業スローガンを変更した。6年ぶりの変更により、Anycallの今後のビジョンが見えてくるようだ。Anycallはどう変わろうとしているのだろうか。

 “Digital Exciting Anycall”――韓国でAnycallといえば、このスローガンがすっかり定着したイメージだったが、6年ぶりに新しいスローガン“Talk, Play, Love”へと変更された。ロゴも、キューブ型の新しいものに変わった。

 “Talk, Play, Love”は、「楽しく会話し(Talk)、人生を楽しみ(Play)、もっと愛する(Love)」という意味で、人生においてもっとも大切な3つの要素を象徴する単語を配置したという。人と人とをつなぐTalk、楽しさを提供するPlay、顧客から愛されるLoveの対象となり、“Anycallを通じて人生の3大要素を思いきり楽しめるよう応援する”という思いが込められている。

photophoto 新たなAnycallのロゴ。顔文字や略字など記号的なものを受け入れる若者向けに、文章ではなくキューブ型のアイコンでアピールする

「Talk, Play, Love」までの変遷

 Anycallのスローガンは、1995年に「韓国の地形に強い」でスタート。98年からは「いつでもどこでも韓国人はAnycall」、2000年からは「私の手の中のデジタルワールド」、2001年からお馴染みの「Digital Exciting Anycall」と移り変わってきた。

 携帯電話市場の草創期だった90年代、韓国市場は米Motorolaが席巻していた。これに対しSamsung電子は「韓国の地形に強い」として、山が多く起伏の激しい地形の韓国でもよく通じるということを全面に出して対抗した。ちなみにAnycallというブランド名は、どこでも(Anywhere)通じるという意味が込められている。

 当時は現在のようにネットワーク整備が進んでおらず、どこでも通じやすいわけではなかった。“韓国の地形に強い”というAnycallのイメージは消費者の意識に深く刻み込まれ、信頼性やブランド力を確立。現在Anycallは、韓国市場の半分近いシェアを占めるまでに成長した。

 その後「小さな音に強い」といった、類似スローガンによるキャンペーンを展開するなどして、通話品質にもこだわっていることを強調。さらに1998年の「いつでもどこでも韓国人はAnycall」というスローガンで、Anycallというブランド名に忠実に、通話品質の良さをいっそう強くアピールした。

 2000年代に入ると、SK Telecomが若者向け会員制度「TTL」をスタート。今ではお馴染みとなった韓国の携帯電話メンバーシップだが、当時は大変革新的なサービスだった。この頃は携帯電話市場がある程度成熟し、新しいユーザー層として若者が注目されていた次期で、各携帯事業者が若い世代の取り込みに必死になっていた。「私の手の中のデジタル世界」というスローガンは、“デジタル”という先進的な言葉で若いユーザーに好印象を与え、実際に手にしてほしいとの思いが込められていた。

 2000年以降は端末の機能が急速に上昇した。液晶のカラー化、高画素カメラ、音楽再生、高速インターネットなど、通話以外にもたくさんの機能を利用できるようになったのだ。そんな中、先端のデジタル機器であることを主張する「Digital Exciting Anycall」というスローガンが登場。主要ターゲットは相変わらず若者世代で、携帯電話でさまざまなデジタル体験が可能になり世界が広がったことを表現した、高揚感あふれるスローガンだった。

 それから時を経た現在、Samsung電子は「携帯電話がすでに生活の必需品であり自己表現のための道具、その人の分身になったという点で、新たなスローガンが必要になった」と話す。Anycallは携帯電話の代表ブランドという次元を超え、普遍的なブランドとしてイメージを確立していきたい意向だ。

 韓国でつながるという信頼感を得たSamsung電子は、次に世界でもつながるというイメージ作りを狙っている。2007年6月からの約2カ月間、世界110カ国で海外ローミングテストを実施。W-CDMA携帯7種を海外に持ち出し、通話はもちろん短縮ダイヤルやSMSなど、韓国で使っている機能がそのまま使えることを実証した。

 こうしたテストが成功するのは、ある意味当然のことかもしれない。うまくいかなければ自社のネットワークや端末に問題があることになる。それでもこうした実験を行い、その結果を公表することで「韓国の地形に強い」から「世界のどこでも強い」ことを実証したかったのだろう。

 現在Samsung電子のW-CDMA/HSDPA携帯は、韓国の3G市場で約65%のシェアを獲得しているという。単に端末ラインアップが多いからという物理的要因もあるが、これにプラスして世界で通じるという信頼感を得るには、こうしたイメージ作りが必要だったといえる。

技術よりマーケティング?

 Anycall携帯といえば技術力や頑丈さ、先端機能などで定評はあるが、デザインに関しては若干無骨という印象を受ける。デザインで選ぶなら「CYON」(LG電子)や「SKY」(Pantech)だが、機能や丈夫さで選ぶならAnycallといったところだ。

 しかし最近は、デザインやファッション性を意識したマーケティング展開が見られる。イタリアのファッションブランド「Giorgio Armani」と、携帯電話などを共同開発すると発表したことは記憶に新しい。開発される携帯電話はタッチパネル端末で、感覚的に操作できるようなシンプルかつファッショナブルなデザインとなるようだ。

photophoto Giorgio ArmaniとSamsung電子のイベントでお披露目されたArmani携帯と、デザイナーのジョルジオ・アルマーニ氏

 Samsung電子のデザインセンターは、イタリアのミラノにある。イタリアを基盤とし、メルセデス・ベンツのデザインなどトータルなデザイン事業を手がけるGiorgio Armaniと、ミラノにデザインセンターを置いてファッショントレンドを機器に反映したいSamsung電子との思いが一致した結果といえるだろう。

 有名ブランドとの共同開発・マーケティングは、2007年に入って同社が多く行っている施策で、これまでにもプロダクトデザイナー、ジャスパー・モリソン(Jasper Morrison)による携帯電話や、BMWとの共同マーケティングなどを展開してきた。

photophoto Jasper Morrison携帯(SGH-E590)は、凹凸を少なくした滑らかなデザイン。普段はたたんで持ち歩き、写真撮影の際は本体を固定し支えるBean Bagが特徴(左)。

韓国でBMW 5シリーズの「528iスポーツ」「530i」「550i」「M5」を購入すれば「SCH-B750」がもらえるというマーケティング。5シリーズはオプションなしでSCH-B750とBluetoothを通じたハンズフリー通話ができる(右)
photo ファッションマーケティングで人気を得た「ミニスカートフォン」(SCH-C220(SK Telecom)/SPH-C2200(KTF)/SPH-C2250(LG Telecom))。メルセデス・ベンツと共同マーケティングも行い、ベンツ購入者にプレゼントされた

 このほか、韓国女性に流行中のファッションから名づけた「ミニスカートフォン」では、人気女優を起用したファッションマーケティングを展開。本来はUltra Editionシリーズとしてスリムさを強調した携帯電話ではあるが、あえてファッション性を全面に出すことで女性からの人気を得た。

 「韓国の地形に強い」に始まって韓国での信頼性を確立し、「私の手の中のデジタル世界」や「Digital Exciting Anycall」の頃には、技術力で先端イメージを築いたSamsung電子。技術力のイメージを確固たるものにした後、同社はメインターゲットとして存在感を増した若者たちのトレンドを狙ってきた。

 今や最新機能よりもデザインの良さが重視されるようになっている。Samsung電子でなくとも、ファッションアイテムとして携帯電話を提案する必要性を強く感じているだろう。

 「Talk, Play, Love」という単語を3つ並べたスローガンは、さまざまに解釈でき、これまでの中でもっとも感覚的でイメージ重視のキーワードだ。そこからは、Samsung電子がスタイリッシュなイメージを目指す姿をはっきりと見てとれる。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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