値下げ騒動に、第4のキャリア登場か――法制度で携帯電話は変えられるのか韓国携帯事情

» 2007年08月06日 19時01分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 何かと国策で計画を推進することの多い韓国だが、それは携帯電話の分野でも同様だ。最近では通信サービスの「結合販売」が大きな話題となったが、これ以外にも携帯電話料金や「通信秘密保護法」も韓国ユーザーの大きな関心事となっている。携帯電話をめぐる国や社会の動きはどうなっているのだろうか。

韓国の携帯料金は高いのか――料金引き下げ騒動

 最近「携帯電話料金を引き下げるべきだ」と主張する市民大体や国会議員と、「料金の引き下げはすでに行っており、それほど高くはない」と主張するキャリア側とが対立している。

 ソウルYMCAは「あまりに高いSMS料金や不当な携帯電話加入費、携帯電話全体の料金の半分に達する月額基本料は“バブル料金”である」とコメントしているほか、ほかの市民団体は「キャリアが年5000億〜6000億ウォン(約660〜760億円)程度の超過利潤を得ている」として、“暴利”だと主張している。

 携帯電話料金の負担感を強調する市民団体に対し、国会議員らは「規制しても相変わらず出ている不法補助金」「設備投資費を超えるほどのマーケティング費」といった要因を挙げ、これが携帯電話料金が高くなる原因だと指摘している。

 これに対しキャリアは、韓国の携帯電話料金について「OECD加盟国平均の76%程度であり決して高くない。しかしユーザーの通話量はOECD平均の1.79倍と高水準」と、ユーザーによる過度な消費を主張する。一方の消費者団体は「OECDの統計は所得に対する通信料金」と消費者にとっての負担感を主張し、両者一歩も引かない戦いとなった。

 参考までに、現在のSMS料金はキャリア3社とも30ウォン(3.82円)/1通で、回線の新規加入費はSK Telecm(以下、SKT)が5万5000ウォン(約7000円)、KTFとLG Telecom(以下、LGT)は3万ウォン(約3800円)だ。また基本料金は料金プランによるが、ライトユーザー向けの安いプランでは1万2500ウォン(約1600円)のものから、カップルなどヘビーユーザー向けのものでは2万2000ウォン(約2800円)、それ以上のヘビーユーザーには無料通話などの恩恵も多くなる9万ウォン(約1万1000円)のものまでさまざまだ。見方によって高いとも安いとも取れるほか、統計資料によって差があるため一概に問えず、論議が高まっている。

 実のところ、こうした料金値下げ論議は毎年起こっている。キャリアはこうした値下げ圧力に対し、実際に数回に渡り料金を下げてきた。それでもこの議論はなかなか収まる気配がない。それどころか2007年は大統領選挙があることから、選挙公約に通信料金の値下げをほのめかす候補者もいて、特に料金値下げへの圧力が高まっている。

 7月からは通信サービスをセット販売できる結合販売が開始され、いくつかの通信サービスが割引価格で販売されている。しかし今回は、携帯電話単独の料金について議論されているため、結合販売の話題はそぐわない。白熱する論議は一般ユーザーまで巻き込み、料金値下げを訴えるインターネット署名運動を始める人まで現れた。

 キャリアは、3Gから4Gへの進化に伴う設備投資や(不法的に出るものも含めた)補助金支給、マーケティング活動費用が増加しているとし、消費者団体と政治家たちは通話料金の値下げと制度的慣習の改正を提起した。さまざまな利害が絡む3者3様の主張が議論を複雑化させている。

第4の新キャリアが登場する可能性

 韓国情報通信部は7月後半に入り「情報通信事業法」の改正案について、その具体的内容を発表した。

 これによると市場占有率が50%を超える事業者が存在したり、あるいは市場へ参入しにくい障壁がある場合、義務的に既存事業者のサービスを他の事業者に販売できるようにするという。つまり通信会社であろうとなかろうと、占有率の高い事業者の通信網を利用して、MVNOによる携帯電話事業が行えるというものだ。

 改正案は11月に定期国会に提出される予定で、順調に行けば年内か2008年初旬には新たなキャリアが誕生する可能性が膨らんだ。

 現時点で市場占有率が50%を超えているキャリアはSKTのみで、SKTの通信網を利用したMVNO業者が誕生すると見られる。もし実現すれば市場が活性化する可能性があるが、SKTは「(MVNO事業者が事業を行うのは)それほどたやすいことではない」とけん制している。

 ちなみに同改正案では、いわいるSIMロックの解除も義務付けている。これは「消費者の選択権を高めるため」(情報通信部)で、2008年3月にはこれを施行するとしている。こちらも本格導入されれば、韓国の市場構造が大きく変わる可能性があるとして注目を浴びている。

通信秘密保護法でプライバシー侵害

 韓国には「通信秘密保護法」があり、この法律によって通信内容や会話内容の自由や秘密が保障されている。今回この改正案が提示され、大きな論議を呼んだ。

 改正案はキャリアに対し、携帯電話の傍聴装置の設置を義務付けようとした。携帯電話の通話内容やインターネットの利用記録を1年間保管し、さらにGPSによる位置情報を「通信事実確認資料」に掲載して、犯罪捜査など必要な場合に閲覧できるようにするというものだ。

 さまざまな情報機器や通信手段を利用する知能犯が増える昨今、捜査現場では通信記録が決定的な証拠となることもある。通信記録を押さえる法制度も必要だが、世論の多くはこの改正案をプライバシーを侵害するものと受け止めた。

 市民団体が先頭に立ってのデモ行進を行うなど、大規模な反対運動が巻き起こった結果、改正案の国会通過は延期となった。現在もプライバシー保護派と知能犯撲滅派との論争は終わっておらず、改正案の行方は9月の定期国会で決まることになった。

 政府の介入が多い韓国とはいえ、法を作るとなると強制力が発生するため意見が対立することはしばしばだ。地上波DMBの導入時もどんな収益モデルにするかで大もめになったが、結局見切り発車となった。ただし、導入後はそれなりの運用がなされているように、韓国は決定や実行が早い。

 改正案が可決した場合、議論がすぐ終結する可能性もあるだろう。また、キャリアなどがどういった対策を行うのか、すでに注目が集まっている。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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