スタートから4年――海外展開も視野に、新たなステージに入るおサイフケータイ神尾寿の時事日想・特別編(2/2 ページ)

» 2008年05月09日 12時46分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]
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ドコモ新体制と新たなビジネスモデル

 このように「おサイフケータイの利用促進」に注力する一方で、ドコモには内なる課題もある。それがキャリアの収益モデルの中に、おサイフケータイをどう組み込むか、というものだ。おサイフケータイの、確固たるビジネスモデル。それはこの4年、キャリアが模索してきたものであり、もはや“市場創出期の投資”というフェーズは終了しようとしている。

 「おサイフケータイのビジネスモデルという視点では、すでにDCMXへの取り組みなどがありますが、今後で見ますとドコモ自身のビジネスモデルが変わろうとしている事が、1つの(ターニング)ポイントになります」(野村氏)

 ドコモは今年4月、新たなブランドと組織の刷新を発表。携帯電話市場そのものが成熟することにあわせて、新時代に向けた体制変革に全社的に取り組む方針を打ち出している(参照記事)。そこにはビジネスモデルの変革も含まれており、ドコモの約5300万人という“ユーザー規模の大きさ”を生かし、ドコモユーザーに対するマーケティングや送客を新たな収益源にする取り組みも始まっている。ここで“おサイフケータイをツールとして使う”部分に、新たな可能性があるのだ。

 「(おサイフケータイを使った)新しいビジネスモデルでは、様々な企業とのアライアンスが重要になります。ドコモは(おサイフケータイやiDを通じて)JR東日本や日本マクドナルド、ローソンなどと提携していますが、今後はこういったアライアンスの中で、どのようにして新しいビジネスモデルを構築していくかが重要になります。

 ただ、これまでのドコモのビジネスモデルと比べて、新体制のドコモにおけるビジネスの考え方は、もう少し広い視野で収支が見ていけますので、その中でおサイフケータイの可能性は引き出しやすくなったのではないかと考えています」(野村氏)

 すでに始まっているものもある。日本マクドナルドとの提携では(参照記事)、今年4月から九州でおサイフケータイ向けのトルカやドコモコインを活用するトライアルが始まっており、「手応えのある数字が出てきている」(野村氏)という。

 「やはり(FeliCa)決済の部分だけでは、ユーザーの利用促進に限界がありますし、加盟店のメリットも物足りない。トルカの活用などで、(提携先と)新しいビジネスモデルを作らなければなりません。そういった意味で、マクドナルドとの取り組みは先行事例の1つといえるでしょう」(野村氏)

 →マクドナルドに「iD」「トルカ」を導入──マクドナルドとドコモがe-マーケティングの新会社

iDのグローバル展開とNFCへの取り組み

 日本の携帯電話市場はこれまで、世界に先駆けて特異的な進化をすることで発展してきた。島国である上、第2世代携帯電話時代に日本独自仕様が主流だったこともあり、世界的にみれば“ガラパゴス的な進化”をするケースが多かったのだ。

 しかし、その状況はこの数年で大きく変わり始めている。ドコモやソフトバンクモバイルを筆頭に、「国際標準重視・グローバル市場との連携」を重視する方向へ舵が切り直されており、日本市場の先進性を損なわずに、国際標準に準拠し、グローバルなサービスと連携する道が模索されはじめている。

 おサイフケータイも、今はまだ「日本市場中心」の技術・サービスであるが、海外との連動や次世代に向けた取り組みはすでに始まっていると、野村氏は話す。

 「グローバル(市場)は、当然ながら考えなければならないところです。ここでは大きく2つの考え方があります。

 1つは『日本ユーザーが海外でおサイフケータイを使える環境整備』。ここではiD/DCMXの海外展開が、まずは考えられます。ドコモユーザーの主要な海外渡航先にiD/DCMX環境を作るというものですので、これは比較的、時間がかからないのかなと考えています。

 もう1つは『おサイフケータイ仕様の海外展開』。これは香港やシンガポールなど、すでにFeliCaインフラが稼働している国で、おサイフケータイ仕様の(現地)端末が売られる環境を作るというものです。これはリーダー/ライター整備などインフラが関係するので日本市場と同様の苦労は考えられますが、ソニーと共同で取り組んでいきたい。ただ、これは少し時間がかかります」(野村氏)

FeliCaの上位互換規格として、NFCへも取り組む

ノキアが発表したNFC搭載端末「Nokia 6212 classic」。切符の購入や支払い、NFC対応タグに触れて情報を取り込む、端末同士を接触させてコンテンツをやりとりするなどの機能が利用できる

 さらに将来のグローバル展開を見据えて、「NFC」にも積極的に関わっていく。NFCはFeliCaを内包する非接触IC技術として考えられており、ISOで国際標準化されている(参照記事)。NFCに関しては海外の携帯電話メーカーも導入に前向きであり、世界最大の携帯電話メーカーであるノキアも、つい先日、NFC対応の端末を発表したばかりだ(参照記事)

 「ドコモは昨年秋にNFC Forum(参照記事)に参加しまして、モバイルFeliCaを標準化議論の俎上にのせるという取り組みをしました。ケータイに非接触ICを載せるという考え方が、NFC Forumに参加する他のメンバーにはあまりありませんでしたし、(非接触IC内蔵のケータイが)市場化されているのは日本だけでしたから、おサイフケータイのような仕組みや事例を認知してもらうことからスタートしました。

 これからは非接触ICのType-A、Type-B、そしてFeliCaをうまく取り込む形で、NFCの仕様を合わせていくという段階になります。すでにソニーとフィリップスが合弁会社を作っていますので、そことも連携しながら、どこもの国でも使えるような(次世代のおサイフケータイに)繋げていかなければならない。そのための活動を今まさに行っています」(野村氏)

 近い将来を展望すれば、携帯電話の重要な一要素として非接触IC技術が盛り込まれるのは間違いない。ノキアやモトローラなど主要な携帯電話メーカーはもちろん、GoogleやマイクロソフトなどICT業界のメインプレーヤーも、「ケータイ+非接触IC」の時代を想定している。これは日本だけのローカルな考え方ではなく、グローバルな潮流である。だが、そこでは国際標準仕様の非接触ICが大前提になり、注目されているのがNFCなのだ。おサイフケータイ/モバイルFeliCaという形で一足先に携帯電話に非接触IC技術を取り込んだドコモも、次のステップとして「いつ・どのような形になるかはまだ分かりませんが、NFCが国際的な流れになれば、おサイフケータイをそちらにアップグレードするという考えになるでしょう」(野村氏)。

 「もちろん、そこでは既存のおサイフケータイ(モバイルFeliCa)との連続性が重要になります。我々の礎は国内市場であり、FeliCaで構築された日本市場のインフラが利用できない形は考えられない。(FeliCaで)国内市場に軸足を置きながら、NFCによる(次の)グローバルな流れに合わせていくという形にしていきたい」(野村氏)

 →「インターナショナルおサイフケータイ」も夢じゃない――ソニー

 →NFCの真のメリットは“直感的インタフェース”

 →“タッチ”で認証〜Nokia、Philips、ソニー、NFC Forum設立

 →近距離無線規格「NFC」が国際標準規格に

おサイフケータイを次のフェーズへ

 おサイフケータイは今、大きな転換点にある。普及台数そのものは大きな規模になり、先行的な事例によって、その可能性と課題の多くが洗い出されてきた。また、一方で、NFCを軸にグローバルでの「未来」が見え始めてきた段階でもある。

 2008年度、ドコモはおサイフケータイ分野において、どのように舵を切っていくのか。

 「すでに多くのドコモユーザーがおサイフケータイを持っている。2008年度は、まずはエンドユーザーのメリットを明確にしていきます。そういうサービスを作り、しかも簡単なメッセージにしてお客様に伝えていく。そして、その裏では大きな取り組みとして、(ドコモの)ビジネスモデルも変えていきます。

 確かに難しさはあるのですけれども、おサイフケータイを次のフェーズに進めていきます」(野村氏)

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