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» 2008年09月09日 07時00分 UPDATE

ケータイの未来を創る“裏方”列伝:“おもちゃ部隊”の発想と技術力が生み出すタッチパネル――シナプティクス (1/2)

iPhoneの登場以来、ケータイ向け技術として大きな脚光を浴びているタッチパネル。日本では、シャープが“普通のケータイとタッチパネル”の融合に挑戦した「SH906i」を投入した。今回は、SH906iにタッチパネルとセンサーを提供したシナプティクスに、タッチパネルの仕組みや開発の裏側について聞いた。

[荻窪圭,ITmedia]
Photo シナプティクス・ジャパン 代表取締役社長の前田義博氏

 今、旬の技術といえば「タッチパネル」である。アップルの「iPhone」に限った話ではなく、デジタルカメラでもソニーパナソニックがタッチパネルを採用した製品を投入しているし、ケータイでも「The PRADA Phone by LG」や「SH906i」「HT1100」「WILLCOM 03」などが出ている。ゲーム機ではいわずもがな「ニンテンドーDS」がある。

 もっともディスプレイにタッチパネルを組み合わせた携帯機器用のインタフェース自体は、かなり古くからあるものだ。PDAは当初からタッチパネル式が主流だったし(Newton MessagePadやPalmなど)、ケータイでもパイオニアが全面タッチパネルの端末「DP-212」を発売していたほどだ。そういえば、90年代に「ペンコンピューティング」が脚光を浴び、Go社のPenPointというタッチパネルOSが登場したこともあった。

 それがここにきて急に注目を浴びているのは、やはり2007年に米国で登場した初代iPhoneの影響だろう。タッチパネルをうまく使えば、ここまで“インタフェースを直感的なものに変えられる”ということを示した。

 そんなわけで、今回のお題は「タッチパネル」である。

 タッチパネルで高いシェアを持つ米Synapticsの日本法人であるシナプティクス・ジャパン(以下、シナプティクス)にお邪魔し、代表取締役社長を務める前田義博氏にいろいろとタッチパネルについて聞いてみたのである。

sa_spt80.jpgPhoto シナプティクス・ジャパンのタッチパネルは、ドコモの夏モデル「SH906i」に採用された


静電容量式のタッチパネルで高いシェアを持つシナプティクス

Photo シナプティクスのデバイスと搭載製品

 まず、タッチパネルの基本を整理しておこう。

 タッチパネルには多くの方式があるが、携帯機器で使われているタッチパネルは「感圧式」(抵抗膜方式)と「静電容量式」の2種類。

 感圧式は読んで字のごとく、圧力をかけることで電気が流れ、押した位置を検知する方式。比較的ポピュラーで、タブレットPCやニンテンドーDSなどで使われている。圧力をかければいいので、指先でもペンでも爪楊枝でも何でも使えるのがメリットだ。

 静電容量方式は、指と表示パネルの間の表面電荷の変化を検知する方式。指で触れると静電容量に変化が起き、それで触れた位置を知る。この場合、ペン(静電容量式専用のものなら可)や爪楊枝ではダメ。指で触れる必要がある。センサーと指の距離が問題となるので、指がぴったりとくっついている必要はなく、保護シートを貼っていたり薄い手袋をしていても大丈夫なこともある。

 現在多く使われているのは感圧式だが、今後、携帯機器で主流になりそうなのは静電容量式。シナプティクスは、その静電容量式のタッチパネルを手がけている。

 われわれにもっともなじみ深い「静電容量式のタッチセンサー」といえば、ノートPCのタッチパッドだろう。実はシナプティクスは、この分野で7割のシェアを持つトップメーカーなのだ。日本でもノートPC全体の半分くらいにシナプティクスの製品が使われており、携帯オーディオプレーヤー市場でも6〜7割のシェアを持っている。

 そして現在、シナプティクスが狙っているのが携帯電話なのである。

sa_spt82.jpgPhoto 「PRADA Phone by LG」「Microsoft Zune」はSynaptics製品を採用している

シナプティクスの語源は「シナプス」

 ではシナプティクスの前田社長にいろいろな話を聞いてみよう。

前田義博氏(以下、前田氏) シナプティクスはもともとIntelで世界最初のマイクロプロセッサである「4004」を開発した人と、LSIの設計理論を開発した人の2人が、「CPUができて、設計もできた。次はヒューマンインタフェースだろう」ということで、設立したのが出発点。社名のシナプティクスは「シナプス・テクノロジー」を縮めたものです。

 最初の10年くらいはソフトウェア開発の準備をしていたのですが、その間にデスクトップPCがノートになり、外へ持ち出すケースが増えてきたのです。そのときに「マウスは持って行けない」ということで、1995年くらいに開発したのがタッチパッド。最初の製品はAppleのPowerBookでした。


 なんと、そこまでさかのぼるとは。ちなみにPowerBookはノートPCのスタイルを決定づけた製品。キーボードの手前にパームレストとタッチパッド(最初はトラックボールだったが)というレイアウトを作ったのがPowerBookだったのだ。

 それがはじまりだったのである。方式はもちろん静電容量式だ。

前田氏 現在では、例えば「Let'snote」(パナソニック)の円形タッチパッドも当社のものです。その後、携帯オーディオプレーヤーが出てきて、各社の製品に採用されました。その次に、「携帯電話にも使ってもらいたい」ということで、各社をまわったんです

sa_spt10.jpgPhoto Let'snoteの円形タッチパッド

ITmedia(聞き手:荻窪圭) この頃はまだ、タッチパネル付き液晶ではなかったんですね

前田氏 そうです。続いて、2006年頃だったのですが、「Onyx」というコンセプトフォンを作りました。透明なタッチパネルを使ったモデルで、電話もできるし音楽も聴ける。地図も入っていて、地図を使って相手を選んでジェスチャーで電話をかけて――という、一連の操作を見てもらったんです。それが実ったのがLG電子の「The PRADA Phone by LG」ですね。全面液晶でアイコンが並んでいて、アイコンをタッチするといろいろな操作ができる。その頃から“ディスプレイ上を直接タッチしたりジェスチャで操作するのがよさそうだ”という風になってきたんです。それを受けて、“日本のケータイとプラダフォンやiPhoneのいいところをくっつけたらどうなるか”ということで開発されたのが、シャープのSH906iだったわけです。

sa_spt30.jpgPhoto SynapticsのコンセプトモデルOnyx(左)。右はLG電子の「The PRADA Phone by LG」

 もともと、「液晶の上にタッチパネルがあると、いろいろできそうだ」というところから始まったのですが、初めてなので大変なところも多く、最終的には共同開発のような感じでした。

ITmedia タッチパッドを手がけた当初から、感圧式(抵抗膜式)ではなく静電容量方式を採用することが決まっていたのでしょうか。

前田氏 そうです。感圧式はもう市場ができていたというのもありますし、静電容量方式はピンチやフリック、回転動作という指先の細かい動きや、2本指の操作も精度を高くできるので有利なんです。

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